斎藤一京都夢物語 妾奉公

□7.お盆の上の真実(まこと)
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斎藤は鍛えられた肌を晒して悠然と着替えを進め、長着の身頃を整えながら口を開いた。

「俺はこの後、昼飯を食ったら巡察がある。お前のは頼んであるからもうすぐ届くだろう。夕飯は・・・」

腰紐を結びながら言うと、座ったままの夢主をちらりと見て続けた。

「一緒に食うか」

「は、はい・・・ぜひご一緒を」

思わぬ誘いに胸が高鳴る。夢主は嬉しくて頬を染めた。

斎藤は着替え終えると「また後程だ」と素早く部屋を出て行った。
朝稽古であれだけ激しく動いて爽やかなものだ。
食事を終えたら早速巡察、夜もいつもなら会議や宴会、あちらへこちらへと大忙し。
その忙しい日常の中に自分も加えてもらえたのかと思うと、少しだけ嬉しかった。

暫くすると、言われた通り昼飯が運ばれてきた。
やって来たのは沖田だけではなく、原田と永倉まで一緒だ。男が三人やって来て部屋は一気に騒々しくなる。

「ありがとうございます・・・」

お膳を受け取るが何だか気まずい。
沖田と原田が二人揃ってニコニコと裏ありげな笑顔で夢主を見つめている。

「あ、あの・・・」

「まぁまぁまぁ、いいからいいから。ほら、新八!言う事があるんだろう!」

モジモジと頭を掻いて永倉が夢主の前に座る。
昨夜の謝罪・・・そんな所だろう。
自分から申し出たのか二人が仕組んだのか、とにかく思い当たる節はそれしかない。

「夢主、この通りだ!!」

永倉はがばりと勢いよく頭を下げ、目一杯叫んだ。

「すまん!!」

両手を畳に付け、深々と頭を下げている。夢主は余りの勢いに気圧された。

「あ、頭を上げてください。立場とか身分とか良く分かりませんが、その、武士で・・・幹部ともあろう永倉さんが、私なんかに頭を下げないで下さい・・・」

大の男にこんな風にされては戸惑ってしまう。
立場ある男がただの居候に、夜の世話役を命じられたような女に頭を下げるなど、周りの目に触れては大変だ。
しかも今尚その行為には命が掛かっており、夢主が道を選ぶ自由は無いのだから。

「過ぎたことは、仕方ありませんから・・・」

力なく許す言葉を選ぶ夢主に、永倉は申し訳なさそうに顔を上げた。

「副長のご命令で・・・永倉さんは・・・従っただけなんです・・・」

自分に言い聞かせるよう、夢主は呟いた。
笑顔が消えて沈む様子を見て、後ろの二人は顔を見合わせた。
策に通じていない沖田と原田の浅知恵。謝罪はかえって不味かったのだと思い知った。
 
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