斎藤一京都夢物語 妾奉公

□7.お盆の上の真実(まこと)
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八木家や前川家の者や女中達が食事の支度をするが、隊士達も自由に使っている。
斎藤は慣れた手付きで、かたかたと音を立て何かを準備していた。
台の上には見覚えのある物が置かれていた。

「このお盆・・・!」

紛れもなくあの盆だった。毎朝と夕時におにぎりを運んでくれた盆だ。
斎藤は何も言わぬまま、おもむろに飯釜の蓋を外した。
手馴れた様子で握り飯をこしらえる。
少し丸みのある、綺麗な三角のおにぎりだ。

ひとつ・・・ふたつ・・・みっつ。

小振りなおにぎりを三つ作り上げた。
その横に大きなおにぎりを同じく三つ、作って置いた。
それから茶を淹れて、交互に注ぎ湯呑み二つに分けた。
斎藤が茶を淹れてくれる間に夢主は眺めたが、目の前のおにぎりはこの三日間、どのおにぎりとも違う。

・・・どういうことだろう・・・

「ふん・・・」

うん、とも聞こえる一息を吐いて斎藤が全てを終えた。

「滑稽だろう。察しの通りだ。土方さんが事の起こりだぜ」

夢主は察し切れておらず、首を傾げた。

「分からんか、色事の前に握り飯を用意してやり、己の為の寝巻を添える。事を終えた朝も用意してやる」

ふぅ、と溜息が出た。

「馬鹿馬鹿しいだろう。副長はきっと花街でこんな遊びをしているんだろ」

・・・じゃあ、初日のあの美味しいおにぎりは土方さんが
・・・次の不恰好なのが沖田さんで
・・・やけに整っていたのが永倉さん・・・

そして斎藤さんの・・・

された事は惨いけれど、夢主は皆が握ってくれる姿を思い浮かべると頬が緩んでしまった。
思い掛けない反応に斎藤は驚いた。

「おぃおい。・・・女ってのは分からんな」

副長は女心に関してはやはり詳しいらしい。
夢主の表情の和らぎ。自分より土方の方が女心を分かっているのかと思い知らされた。
 
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