斎藤一京都夢物語 妾奉公

□9.お留守番
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お梅が去ると、夢主はひとりのんびりお昼を済ませた。
箸を動かしていても考えるのは斎藤や皆が何をしているか、それから先程出会ったお梅の事、そしてその相手の芹沢の事だった。

「新選組の前は水戸で色々あった人って聞いた事があるけど・・・お酒に溺れて病も患ってたとか・・・荒くれ者とか、敢えて嫌われ者に徹していたとか、結構謎の多い人・・・」

あのお梅が慕う人物なら芹沢の凶行にも実は理由があるのかもしれないと、良い方向へ考えてしまう。

「でもきっと、避けては通れないんだろうな・・・」

これから起こる、雨の日の事件を思い浮かべていた。

食事を終えると、夢主は斎藤の袴をテキパキと仕上げだ。
完成した袴を広げ、出来栄えを確認する。

「出来たぁ!斎藤さん誉めてくれるかなぁ、うふふ」

上機嫌で袴に頬ずりをして強く抱きしめた。

「早く帰ってきて欲しいな・・・斎藤さんは不死身だから、大丈夫。うん・・・大丈夫・・・」

信じている。不安は無い。無かったのだが、隊士達が揃い刀や槍を手に出立するのを見送り、戦地に赴く現実を実感して怖くなったのだ。
大きな衝突は無いはずだが、万一何かが変わってしまったら・・・そう考えると怖かった。

ひとり屯所で待つ時が過ぎ、夕暮れが近づいた頃、急に雨が降り出した。
まばらだが雨粒は大きい。

「雨だ・・・結構強くなりそう・・・」

縁側から次々雨を降らせる空を見上げた。
雨雲に覆われていても、微かな眩しさを感じる。

「気持ち良さそうだなぁ・・・」

そう言うと、夢主はおもむろに着物を一枚脱ぎ、肌着の襦袢姿になった。そのまま草履を履き、雨の庭先に飛び出た。
白い襦袢はみるみる雨粒を吸い込み透き通っていく。

「・・・ふふ、気持ちいい」

薄っすら目を閉じて空を仰ぎ見て、両手を広げると体中で雨を受けた。
そのまま庭の中央まで進み、雨を楽しんでくるくると回った。

「このまま降って・・・」

全て洗い流される気持ちで天を仰ぐ。
雨に打たれていると澄んだ気持ちになり、時間が経つのを忘れた。

「ぁ・・・着替えと手拭い!用意してくれば良かった・・・どうしよう、お部屋が濡れちゃう・・・」

このまま上がれば斎藤の部屋が水浸し。
流石の斎藤も怒るだろう。一人で後始末が出来るとも思えない。

「全部脱いで着物を絞ってから行く・・・うぅ・・・ううん、流石に無理・・・誰かに見られたら・・・」

右往左往していると、外から喧しい男達の声が聞こえてきた。
皆が帰ってきたのだ。

「わ、どうしよう!流石にまずいよね」

きょろきょろと周りを見回して隠れる場所を探すが、適当な場所が見当たらない。
怒られる覚悟で部屋に戻ろうと決めた。
縁側に上がろうと庭先に戻った時、聞き慣れた声が駆け寄って来た。

「夢主ちゃん!どうしたんですか!!」

沖田だ。
その後ろにはもちろん斎藤がいた。

「ぁああ、あ、あの、」

「ちっ、いいからこのド阿呆ぅ、とにかくさっさと部屋に入れ!!」

戸惑う夢主を斎藤が急かした。
間もなく他の隊士達もやって来て、どやどやと自由に屯所内を歩き回り、各自片付けに忙しくなった。
 
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