斎藤一京都夢物語 妾奉公

□10.誕生、新選組
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「じゃぁ・・・斎藤さんもお気をつけ下さいね・・・そういう事でも移る病気が梅毒です・・・ご存知かもしれませんが」

安い女は買わないで下さいとは流石に言えなかった。

「フン、そもそも吉原と違い島原は芸妓の街だ。余程の馴染みでなければそういう事にもならんだろう」

「そうですか・・・」

少しホッと安堵した夢主だが斎藤は続けた。

「あぁ、安心しろ。馴染みの天神以外は相手にせん」

夢主は苦しかった。苦しい一言だった。
あんた馬鹿かと、沖田でさえ苦々しく斎藤を見た。

「フン」

別に隠す気など無い。夢主に知られた所で一向に構わん。
そう考えていたが、事実を告げた途端に何やら胸の奥に霞みが掛かった。そんな己に思わず舌打ちをする。

「あ、あとは、風邪とか・・・コロリ・・・伝染病を防ぐ為に、うがいと手洗いして下さい。当たり前の事ですけど・・・みなさん余りされていないでしょ。帰って来た時、ご飯の前。厠の後も怪しいものです」

これには単純に不快を感じていた。

「清潔にしていれば病気が半分程防げると思います。土方さんにも伝えて下さい。隊の強さにも関わると思うので・・・」

仮病の隊士も多かったが、それでも病を抱えた隊士は多くいたと聞いている。
隊士の数は隊務の成否に関わるはずだ。

「鼻と口を隠すのは、くしゃみや咳で病がうつる事が多いから・・・風邪も・・・労咳も・・・」

敢えて斎藤の顔を確認して話を続けた。

「咳き込んでいる時は近付かない・・・せめて顔を隠して介抱してあげて・・・沖田さん優しいから、放っておけないかもしれないけど」

二人は心得たと共に大きく頷いた。

「その後はすぐに手洗いうがいをして下さいね。体調の悪い人のお風呂は最後!その湯は使い回さないで湯桶もしっかり洗って、肌着は毎日換えて!お酒の場でも病気のでも嘔吐物に触れないとか・・・それから・・・」

言うのが躊躇われるが、最後に大切な事を伝えねばならない。剣客の二人に願うには気が引ける話。
しかし夢主は正直に伝えた。

「血には・・・極力触れないで下さい。その、必要以上に手で触ったり・・・ましてや口の中に入れないで下さいね。血で病気がうつることもあるんです。肌に付いたら、すぐに洗い流すのが本当はいいんです・・・未来ではお医者さんも血に触れないんですよ」

「血・・・ですか。難しいですけど、気をつけましょう・・・ありがとう夢主ちゃん」

とりあえず伝えたい事は全て伝えた。少しでも守ってくれるよう祈るばかりだ。

「私も・・・沖田さんにお礼を」

「?」

「・・・おにぎり、ありがとうございました」

何の礼か思い付かない沖田の前で、冗談の意味も込めて畳に手をつき、深々と頭を下げた。

「ぁ、いやぁ〜、あれは・・・ごめんね不恰好で」

「うふふ、とっても美味しかったですよ。添え物もありがとうございました。凄く嬉しかったんです。不恰好でもいいんです・・・あったかくて、美味しかった・・・」

夢主が首をわずかに傾けて微笑むと、沖田はえへへ・・・と照れ笑いで応えた。

・・・斎藤さんのおにぎり、もっと美味しかった・・・

夢主は目を細めて心の中で呟いた。
 
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