斎藤一京都夢物語 妾奉公

□18.湯屋時
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この日、夢主は珍しく庭掃除を手伝った。
庭を掃けば舞い上がる土埃をかぶる。掃除を終えた夢主は湯屋へ行きたくて屯所内を歩いていた。

『外に出る際は幹部二名以上の同行』土方に言われた掟をしっかり守っている。
斎藤と沖田が巡察でおらず、他の幹部を探していた。
だがそれぞれ出かけているらしく、廊下を何度か往復しても誰も見当たらない。

「二人が戻るの待ってたら遅くなっちゃうもんね・・・今日は無理かな」

ぼやきながらトボトボ歩いていると、すぐ傍で声がした。

「何してんだ」

土方だ。ぶつぶつ聞こえる夢主の声を聞いて、鴨居に手を掛け部屋から体を出した。
普段は仕事の邪魔にならぬよう避ける場所。知らないうちに土方の部屋の前にいたのだ。
声を掛けられるのはとても久しぶり。

「土方さん・・・実は湯屋へ・・・行こうと思ったのですが、どなたも捉まらなくて。今日は大人しく諦めます・・・ふふ」

どうしようもないと、苦笑いでそそくさと立ち去ろうとした。
その後ろ姿を土方は思わず呼び止めた。

「待て」

夢主が振り返ると懐手で腕を組んで立っている。珍しくとても寛いだ様子だ。

「一緒に行ってやるよ」

「ぇ・・・いいのですか。でも・・・お忙しいのでは。それにお二人以上って・・・」

「いいんだよ、副長の俺がいいってんだ、いいだろう」

そう言うと土方は部屋に戻って大小を腰に差し、そのまま夢主の前に歩み出て屯所の外へ連れ出した。

外は日が傾きだし、西の空が薄っすら赤く染まり始めている。
歩くにつれ人通りは減っていった。
夢主は言葉通り、土方の三歩後ろを歩いていた。口を閉ざしたまま湯屋を目指す。

屯所から少し離れた辺りで、土方が急に歩みを止めた。気付けば夢主は三歩以上離れていた。

「おぃ、もう少しくっついて歩け。何かあった時に守れねぇだろうが」

「ぁ、はぃ」

湯浴みの荷物を抱えた夢主は、ほんの少しの距離を小走りで縮めた。

・・・土方さん・・・どこの湯屋に連れて行ってくれるのかな・・・混浴の湯屋だったらどうしよう・・・

夢主はドキドキしながら、土方の速い歩みに合わせた。
土方の足元を見て追いかけるように一生懸命歩く。

「安心しろよ、いつもの湯屋に連れてってやる」

「ぁ・・・」

どうしてだろう、土方はいつも夢主の心を読んでいるようだった。

「ふん、新選組の副長はなぁ、いろんな情報を持ってるんだよ」

顔を上げた夢主に、土方は悪戯に笑って見せた。
 
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