斎藤一京都夢物語 妾奉公

□11.祝杯
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浪士組が新選組に変わった日は、とても忙しく一日が過ぎていった。喜びから島原に祝宴に行く者も多い。
日暮れ時、ようやく斎藤は部屋に腰を落ち着ける事ができた。

「斎藤さん、おかえりなさい」

「あぁ」

お帰りなさいと言うのも変かもしれないが、斎藤が部屋に戻るとそう出迎えてしまう。
斎藤が寛ぐのを待って夢主は直した袴を差し出した。

「斎藤さんの袴も出来てたんです。先にお渡し出来なくてごめんなさい・・・」

土方の羽織りを渡す時に一緒に出せば良かったのだが、落ち着いて渡したい思いがあり、そのままにしていた。

「構わんさ。こちらこそ手間をかけさせたな、礼を言うぞ」

斎藤は素直に礼を言って受け取り、その場で開いた。

「ほぉ・・・土方さんの羽織といい、いい腕をしているな」

「腕ってほどでも・・・ありませんけど・・・ね」

嬉しくて顔が緩んでしまう。
羽織を眺める斎藤をちらちら目だけで何度も見てしまった。

「フッ。また頼む。藤堂君のも引き受けたのか」

先日頼むー!と騒いでいた藤堂。
あれから部屋に迎え入れていないが、斎藤自身、常に自室にいる訳ではない。

「はぃ・・・実はみなさん・・・」

振り返って後ろを見せると、衝立の向こうにくたびれながらも畳まれた羽織などが積み上がっていた。

「お前、頑張るのは結構だが無理はするなよ」

「はい!でも時間を持て余すので、ありがたいくらいです」

やっぱり斎藤さんは優しい・・・
気遣いの言葉に自然と笑顔になる。

「みなさん・・・お出かけになられたんですよね・・・」

楽しげな声が次々屯所から遠ざかって行った。
斎藤は馴染みの天神のもとへ行かないのか、思わず訊いてしまいそうになる。

「フン。浮かれてばかりはいられん」

その時、浮かれた声で沖田がやって来た。

「夢主ちゃん斎藤さん、僕です、入りますよ〜」

予め約束していたのか、斎藤の返事を待たずに沖田が入ってきた。

「沖田さん!・・・それ・・・」

「ふふ〜、お酒ですよ。夢主ちゃん、三人で一緒に呑みましょう!」

沖田の手には盆、盆には大きめの徳利と猪口が三つずつ乗っていた。
爽やかに微笑んで中に入り障子を閉めた。

「夢主ちゃんも一緒に出かけられたらいいんですけどね、夜は色々とうるさいですからね、あはは」

斎藤も沖田も夢主の近くに寄り、「さささ」と促されるまま三人小さな円を描くように座った。
 
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