斎藤一京都夢物語 妾奉公

□12.二人の朝
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初めて三人で酒を楽しんだ日から、平穏で似たような日々が続いた。

朝はいつも早くから稽古らしく、目覚めると斎藤の姿は部屋に無い。
食事は芹沢達、近藤達、それぞれ世話になる屋敷で済ませており、更には幹部、平隊士達も部屋を分けていた。
夢主の食事は家の者が部屋の前まで運んでくれる。なるべく屯所内を出歩かずに済むようにとの計らいだ。

時間があれば沖田に藤堂、原田や永倉が部屋を訪ねてくれる。
話し相手になってくれたり、人が少ない時を見て、籠っていては退屈だろうと庭の散歩に付き合ってくれた。

土方はあの日以来忙しいのか夢主が部屋に籠もっているからか、殆ど姿を見かけない。
時折誰かを怒鳴りつける声が聞こえると、びくりと驚きつつも話をした日を懐かしく思い、くすりと笑うのだった。

風呂は結局外に出る時間が取れず、斎藤と沖田の立会いのもと前川家の風呂場を何度か借りている。
生活が落ち着いてからは、とても楽しい時間が過ぎていた。

ただ、幹部の者達は夜な夜な話し合いを持ち、土方や近藤の部屋に集まったり、外で酒の席を設けていた。
必然的に、斎藤が戻らない夜が度々あった。

そんなある日、厠からの帰り、ある幹部に初めて出会った。
少し青白い顔だが聡明な顔立ちで、静かな佇まい。穏やかな眼差しをしている。

「あの・・・」

「はじめまして。貴女の事は聞いておりますよ」

優しい声に聞き覚えがある。夢主は初めて会う幹部の全身を眺めた。

「もしかして・・・山南さん・・・ですか」

「如何にも。少し体調を崩しておりましてね、貴女と同様、部屋に籠もってばかりですよ」

山南はそう自嘲して微笑んだ。剣客にしては腕が細って見える。

「ご挨拶が遅くなりました・・・私・・・夢主と申します。屯所にお世話になっております」

どこまで話せば良いのか分からず、差し障りの無い挨拶で済ませた。

「お気になさらず、一通り聞いております。貴女も大変だとは思いますが、我々の務めにお力添えいただければ、有難い限りです」

山南はにこやかに小さく頭を下げた。

「みなさん会議だと言っては島原に通い詰めで・・・困ったものです」

山南は力ない顔で門の方角を見た。夢主は山南の馴染みの芸妓、明里の存在を思い出した。
山南も一緒に出向いて明里に会いたいのだろうか。
夢主の心中を察したのか、山南がにこと微笑んだ。

「どうかお気になさらず。まずは体を治す事が第一ですから。貴女もご無理をなさらず・・・色々とお気を付けて・・・」

そう言うと会釈して、山南は自分の部屋へ戻っていった。
夢主が山南に会った最初で最後の一時だった。
 
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