斎藤一京都夢物語 妾奉公

□13.血の臭い
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朝餉は茶屋で済ませ、まだ日が昇りきらないうちに屯所へ向かった。
思えば外を歩くのは初めてだ。

昨日は斎藤の体調と何が起こるのか気になり頭が回らなかったが、今朝はあれこれ考える余裕が出ていた。
茶屋から屯所までどれくらい歩くのだろう。
店が並ぶ華やかな道ではないが、とても風情ある町並みが通り過ぎて行く。
朝の柔らかい光の中、追いかける斎藤の背中がとても頼もしく見えた。

屯所に着くと出た時と同じように斎藤が戸を開け、裏口から入った。
中はまだ静かだ。誰も戻らないのか。

「みなさん、いないのでしょうか・・・お茶でも、お持ちしましょうか」

部屋で落ち着く夢主だが、斎藤は腰を落ち着ける様子が無い。
ごそごそと練習着を取り出している。

「いや、茶はいい。朝稽古の後にでも頼む・・・と言いたい所だが、その頃には屯所が騒がしくなるだろうからな。気にするな」

着替える素振りを見せ、このままこっちを向いている気かと無言で伝えられ、夢主は慌てて背を向けた。

「帰ったばかりで・・・お稽古付けられるのですか。斎藤さん、大変ですね・・・」

夕べあれほど疲れて見えた。少し眠ったとは言え、斎藤こそ無理をしているのではないかと感じてしまう。

「俺は体は丈夫なんでな。今朝は人手が少ないから俺が出向かねばならん」

昨日の事から続き、そこまで指示を受けて動いているとは、抜かりない土方だ。

「昨夜は良く眠れた。昼寝も出来たしな。礼を言うぞ」

「は、はぃっ」

何故礼を言われたのかは分からないが、夢主は嬉んで返事をした。


朝稽古が終わる頃には幹部が数人屯所に戻っていた。ぽつりぽつりと戻り、まだ戻らない者もいる。
いつもの調子で楽しげに話す者もいれば、何やらピリピリした空気を醸し出す者もいた。

夢主がいる部屋にも声が近付いてきた。
斎藤が戻るよりも早く、何人かの幹部が夢主の顔を見に来たのだ。
 
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