斎藤一京都夢物語 妾奉公

□15.小さな居場所
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夢主が目覚めると、外には日が昇っていた。
閉ざされた部屋の中も明るさを感じる。
寝起きの頭はぼんやりするが、すぐに角屋の一室だと思い出した。

「あれ・・・お布団・・・布団なんてあったんだ・・・」

昨夜は酒を呑んで話を楽しみ・・・そこまでしっかり記憶にある。しかし布団に入った覚えは無かった。
目の前では斎藤と永倉が座って朝飯を食べている。

「ぁ、あの・・・」

「おぅおはようさん」

「あぁ」

落ち着いた笑顔の永倉と、いつも通りの斎藤の会釈で朝の挨拶が返ってきた。

「まさか一晩中・・・」

「まさか、ちょいと雑魚寝したぜ。なぁ斎藤。俺達あんまり寝なくても平気なんだよな」

「あの、布団・・・もしかして・・・」

「あぁ、俺が運んだ。何度目だか分からんがな」

斎藤はまるで己の役割だと割り切っているような言い方だ。
永倉は笑いながら皿をつついている。

「すみません、ありがとうございます。今度は大丈夫だと思ったんですけど・・・」

「まぁいいじゃねぇか、一緒に呑めて楽しかったぜ」

永倉はスッと首をかしげ爽やかな笑顔で慰めた。少し淋しげだったのはなぜだろう・・・夢主は何かを感じた。
斎藤も「そうだな」とそれ以上は責めなかった。

角屋を出た。屯所に戻るのが怖い。
惨劇の後はどうなっているのだろう。手を下した皆はどんな顔をしているのだろう。夢主は全てが怖かった。
腰にある刀の重みと心の重みが重なり、自然と足取りが重くなる。

「今日は屯所には戻らんぞ」

「え・・・」

前を行く斎藤が不意に振り返った。
斎藤はすぐに体を戻して、夢主の戸惑いに応えること無く歩みを進めた。永倉もそのまま歩いている。

三人黙ったまま暫く行くと、小さいながらも立派な塀に囲まれた家に辿り着いた。
居住部分は燐家や道から隔離されている。

「ここは・・・」

斎藤も永倉も家の外観を確認するように立ち止まり、見上げた。

「入るぞ」

斎藤の言葉に続き、夢主は小さな家に上がった。
 
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