斎藤一京都夢物語 妾奉公

□17.
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「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっくしぇっっ!!」

「・・・大丈夫か沖田君」

「あははっ失敬失敬!冷えますねぇ、すっかり秋です。昼間でこれなら朝晩の巡察なんてもっと冷えますね」

「あぁ。斬り合いの一つでも始まれば温まるんだがな」

「ははっ、確かにっ」

季節はすっかり秋。京は秋が似合う都である。

静かな一日が過ぎていた。
怪しい浪士の姿は無く、押し入りや喧嘩すら見かけない。
平和な一日は巡察が退屈だ。沖田は欠伸が出そうだった。

まだ陽はあるが既に肌寒い。
すぐに日が暮れ、風は更に冷たくなる。沖田は寒がる振りをして腕を摩った。

「ぁ〜夢主ちゃんと京の町歩いてみたいなぁ。土方さん厳しすぎるんですよね」

「あぁ。たまに湯屋と休息所に連れ出すくらいで、華やかな京の市中には行った事がない。籠もり切りだなあいつは」

「僕だったらとっくに逃げちゃいますね」

「逃げた所で女身一つ、見知らぬ土地では生きて行けまい。今の血の京都なら尚更だ」

「分かってますよ!僕ならって話です」

夢主は巡察はもちろん、非番の日や夜の酒宴の際も快く送り出してくれる。
きっと心の中では淋しがっているのだろう。

「本当に冷えるな・・・」

巡察の帰り際、斎藤はふと思い立って寄り道をした。


「お帰りなさい斎藤さん。今日も巡察お疲れ様です」

夢主がいつもの笑顔で迎えてくれる。
斎藤にもすっかり馴染みの光景だ。

「・・・そのお荷物は・・・」

「ほらよ」

座っている夢主の胸元目掛け、風呂敷包みを軽く放り投げた。

「半纏と丹前だ。どちらも綿入りだから上着として夜着として好きに使え。もう夜は充分すぎる程に冷えるからな」

「ぁ・・・」

自分の為に斎藤が選んで買ってきてくれた。
八木家や前川家の者に頼めばお古を貸してくれただろうに。

「ありがとう、ございます・・・」

斎藤の優しさを確かめるように、ぎゅうと風呂敷をきつく抱きしめた。
中には温かそうな綿入りの物が二枚が入っている。
一枚でも事足りるのに・・・夢主はクスッと笑ってしまった。

深い藍色の生地に小さな桜がちりばめられた半纏と、落ち着いた桃色に同じく桜が散りばめられた丹前。
実は斎藤は迷いに迷って二枚買ってしまったのだ。

・・・愛らしい色も似合うだろうが、落ち着いた物も色っぽいものだ・・・
・・・外と中で・・・寝る時とそれ以外・・・うぅむ・・・

斎藤も迷う事があるのは、夢主には内緒だった。
 
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