斎藤一京都夢物語 妾奉公
□19.市中見物
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「これから京の町を見に行くんだろ」
「はい、あの・・・ありがとうございます。土方さんが許可を下さったって斎藤さんが・・・何か沖田さんには言うなって言ってたんですけど」
薬をしまうと土方は元のように胡坐を掻いた。
市中に行けるのは土方の許可のおかげ、斎藤の言葉を思い出して頭を下げた。
「はははっ、そいつは面白いな。何か企らんでるんだろうぜ」
「そうでしょうか・・・」
考えてみれば人を揶揄うのが好きな斎藤だ、完全には否定出来ない。斎藤の本質が分かってきたような気がする。
いや、むしろこの機会を逃すはずが無いとさえ思えて来た。
「まぁ、総司に言わないほうが面白いって思ってんだろうなぁ、あいつはよぉ」
沖田に言うなと話した斎藤と同じように、土方も楽しそうに口元を歪めた。
「そう言えばもう一つ・・・忘れていました、私・・・。おにぎり、ありがとうございました。・・・まだ・・・お礼、言ってませんでしたね」
少し気まずそうに土方を見上げながら、忘れていた礼をもう一つ告げた。
「あぁあれか・・・あれはまぁ・・・・・・うまかったか」
「はぃ」
土方も気まずそうに頭を掻き始めたので、思わずくすっと笑ってしまった。
「土方さんがあんなに美味しいおにぎりをお作りになるなんて・・・ちょっと意外です」
「ふんっ・・・あれはもう、いいんだよ」
鼻を擦りながら照れている。
詫びの気持ちと情けなさ、反省の表れかもしれない。急に口数が減った。
「それより、総司と斎藤と行くんだよな。俺の家の秘伝薬には惚れ薬に媚薬に何だってあるんだぜ、いっちょ、使ってみるか?」
「びっ、媚薬とか惚れ薬だなんてっっ!」
「はっはっは!冗談だよ冗談!そんな便利なもんがあったら、誰も苦労してねぇよ!」
夢主が真っ赤な顔の前で両手をぶんぶん振って断ると、土方は嬉しそうに歯を見せて笑った。
「で、お前の本命どっちだよ、総司か?斎藤か?」
「そっ、そんなっ、本命とかっ」
先程と同じように手をひらつかせて真っ赤な顔であたふた、何も言えない。
「それとも・・・他にいるのか・・・」
距離を詰める土方。
ふざけて笑っていたのが嘘のような真剣な眼差しで、端麗な顔が近付く。
「そっそんな・・・私は・・・」
顔を紅潮させたまま、寄って来た土方から顔を背けた。
その時、部屋の外から声がした。
「土方さーん!そろそろ夢主ちゃん返してくださいよー!湯屋が混んじゃいますよ〜」
沖田の声に土方はニッとして夢主を見た。
嘘を真と振る舞う弟分が可笑しくて仕方がない。
「ま、楽しんで来い。二人にくっついて離れるなよ」
「はいっ」
土方は顔を離すと優しい顔で送り出した。