斎藤一京都夢物語 妾奉公

□22.見定め事と中途半端な君
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・・・とある川辺、船入り場が見える・・・
水の音が聞こえる場所に建つ静かな旅館の中で、その少年と男は話していた。

旅館、小萩屋。

「おい緋村、見たか」

「何がですか、飯塚さん」

浪人にも見える無精髭を生やした細身の男が訊ねると、部屋の隅で刀を抱えたまま座る赤い髪の少年、緋村が応えた。

「京の市中で見たんだろう」

「新選組幹部、沖田と斎藤の事ですか。それなら確かに確認しましたが、それが何か」

冷たい目で飯塚を見て、少年は抑揚の無い声で僅かに早口で答えた。

「そうじゃねぇだろう、連れていただろう、なかなかの別嬪をよ。どこかの娘の警護にしちゃ、櫛や紅ひとつで騒いでいたのが合点いかねぇ」

「それで何か」

「一番隊と三番隊の組長がべったりくっついて、昨日は巡察も市中に偏っていやがった。しかもいつもより一隊増やしてだぜ、ありゃ何か訳ありだ。奴らにとってそんなに価値のある女なのか、興味ねぇか」

「ありませんね」

緋村は関わりたくないのか冷たい目のまま一言だけの返事を繰り返す。

「囮に使えるかもしれん。お前も言ってただろ、奴らがいずれ最大の敵になるってよ」

「だが桂さんは女を人質に取るようなやり方は好まないでしょう」

こいつ真面目だな、飯塚は面倒臭そうに緋村を見て続けた。

「まぁ、そっちは俺の仕事だからな、ちょっと調べてみるさ」

俺には関わりありませんからとばかりに顔を背ける緋村だが、飯塚が懐からある物を取り出し、嫌でも振り向かされた。

「今夜だ」

「・・・分かりました」

飯塚が出て行くと、緋村は受け取った黒い状袋を確認した。
緋村の元にこの黒い状袋が届くと、その夜、京の町には血の雨が降った。
 
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