斎藤一京都夢物語 妾奉公

□23.教えてお兄さん
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休息所から戻ってからの日々、何やら沖田が斎藤を睨みつけている時があると気付いた。
あの日、夢主が眠った後に何かあったのだろう。気まずさが漂い聞けずにいる。
実際には女に対する愛情の話から始まり、他愛のない男達の色話の末の下らない喧嘩だったが、そんな事を知る由も無い。

夕食時。夢主は互いに無反応な二人に挟まれ、極めて静かな食事を終えた。
二人が会話もなく去り一人取り残されて、座敷の後片付けを手伝った。

その頃、座敷を一番に抜け出した男が屯所の勝手元で酒を物色していた。
見慣れた瓶の並びに、いつもと違う瓶がひとつある。

「お?この酒、いつものと違いますね」

「あぁ原田さん。それやったら、斎藤はんと沖田はんが用意しはった弱いお酒どすなぁ。あまり見ぃひんお酒ですわぁ」

「ふぅん・・・。な、これ貰っていくぜ!!」

原田はそう言って酒を持ち出した。


「沖田さんどうしたんだろう、斎藤さんも気のせいかな・・・何かつれないような・・・」

「よぉ、夢主」

「原田さん!」

勝手元に食後の膳を運び終え、とぼとぼ廊下を歩いていると、不意に呼び止められた。
日が沈みきろうとしている薄暗い中、いつもの明るい顏で原田が立っている。
陽を連れ歩いているような明るさだ。

「なぁ、ちょっと面白いもんがあるんだ、来てみねぇか」

原田に誘われるのは珍しい。面白い物とは何だろう。
鬱々とした気分だった夢主は、晴れやかな気持ちにしてくれる原田の傍に居たかった。

「少しだけなら・・・」

遅くなるといつまでも部屋に戻らない夢主を斎藤が心配する。
でも少しだけなら構わないだろう。

「よし、じゃぁ来い!」

こうして招かれた原田の部屋。入るのは初めてだ。夢主は緊張して恐る恐る足を踏み入れた。
案外小ざっぱりとした綺麗な部屋。斎藤の部屋と違う匂いがするのは気のせいではない。

「失礼・・・します」

「おぉ入れ。そんな緊張すんなよ、ほら座れ」

言われるままに示された場所に腰を下ろした。
すると、とぷん・・・と音を立てて原田が酒瓶を取り出す。

「面白いだろ、弱い酒だとよ。ちょっくら晩酌、付き合ってくれねぇか」

「あ・・・」

見た事がある酒瓶だった。
そして晩酌を止められている事も思い出した。

「どうした」

「あの、実は晩酌・・・どなたの相手もするなって・・・」

「斎藤か」

原田は可笑しそうに「そうかそうか」と頷いた。

「どうする、止めておくか」

「いえ・・・お付き合いさせて下さい」

優しい原田、無理強いして怒られては可哀想だと訊ね、夢主は暫く考えてから微笑んだ。
原田のいつもの酒の相手は永倉や藤堂、他の隊士とも連れ立って島原で呑んでいる。

「でも・・・どうして私なんかをお誘いに」

「ははははっ!そうか。まさか俺が誘うとは思わなかったか!」

豪快に笑いながら自分の酒瓶も取り出して並べ、呑む支度を整えた。
原田が用意したのは猪口ではなく盃だ。
 
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