斎藤一京都夢物語 妾奉公

□24.冬の刺客
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原田と酒を呑んだその日、斎藤と沖田が迎えにきてくれた事を夢主は覚えていた。
かなり酔って言動がおかしかったのも、なんとなくだが覚えている。
拗ねてむくれていた自分、最後は斎藤も呆れていたかもしれない。

その斎藤からの酒で眠ってしまい、それからの記憶は無い。
しかし温かさの中で優しさに包まれていた・・・そんな感覚を残っていた。

目覚めた夢主は明るい光が差し込む部屋の天井をぼんやり見ながら、昨夜の事を考えていた。

ごそ・・・
そばで聞こえた小さな物音で体を起こした。

「斎藤さんいらしたのですね、朝稽古かと・・・おはようございます」

・・・怒っているのかな・・・呆れているのかな・・・それとも・・・

恐る恐る衝立から顔を出す。
向こうに見える顔はどんなものか、緊張しながら覗いた。

「よっ」

思わぬ挨拶に夢主は衝立にぶつかってしまった。
にっと笑う斎藤は怒っているようには見えない。

「おいおい、朝から元気だな。だが酒は残っていないようだな」

「あっ、はぃ・・・あの・・・夕べはごめんなさい」

「おい、謝るならきちんとこちらへ来い」

斎藤はフンと笑った。
夢主は素直に衝立の裏から出て斎藤の前に座る。その間、向けられた視線は外れなかった。

「昨日は・・・色々とご迷惑おかけしました・・・すみませんでした・・・」

ちらりと見上げて小さく謝った。
斎藤は黙って腕を組んでいる。何を考えているのか分からない、読み取れない表情だ。

「それから運んで下さって、ありがとうございます。いつも・・・すみません。それに・・・晩酌の約束、ごめんなさい。あと失礼な事を言ってしまって・・・」

次々と出てくる謝罪の言葉に斎藤も苦笑いだ。

「夢主、もういい。それから」

何か咎められると思った夢主は肩を竦めた。

「すまなかったな」

「・・・へ」

目をくりくりと丸めて、すっとんきょうな声を漏らした。
なんて声を出すと斎藤は眉間に皺を寄せたが、分からないのも無理は無いと先を続けた。

「ここ数日、お前に随分と気を使わせてしまったな。沖田君とはなんでもない。ただの・・・はぁ。いつもの事だ」

斎藤は続けると長くなると溜息を挟んで話を短く終わらせた。
安心した夢主はいつもの微笑みに戻っていた。
久しぶりに見る心から幸せそうな表情。斎藤はそれに安堵する自分に気が付いた。

「良かったです・・・最近ずっとおかしかったから・・・理由も分からなくて」

「言いたい事は言えばいい。俺達が阿呆だと思ったらどついてくれて構わん。まぁ怒るがな」

斎藤なりの冗談で和ませる。夢主は素直に笑った。
 
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