斎藤一京都夢物語 妾奉公

□28.おもしろき、雪遊び
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翌朝、部屋の中には昨日よりも更に冷たい空気が漂っていた。
布団から出た途端、体が震える。着替えながら体の熱がどんどん奪われていった。

朝食時、沖田から今日は時間が取れるから、一緒に稽古しませんかと誘いがあった。
誘う目はきらきらと輝いて、断られる事など無いと決め付けている。

「じゃぁ・・・お願いします」

「はい、頑張りましょう」

沖田は満面の笑みで喜んだ。
もちろん夢主も嬉しいのだが、沖田の申し出はいつも迫力があり断れないのも本音。
斎藤はそんなやりとりを、やれやれと言った顔で眺めていた。

裸足で向かう道場、長く続く廊下はひんやり冷たい。
辿り着いた先も氷の様に冷たい床。足先の感覚がどんどん失われていった。

少しでも温まればと無意識に立ったまま足の指を動かす。
もぞもぞしていると、木刀を用意する沖田がそれを見つけて小さく笑った。

「ははっ、寒いですね!まずはちょっと動いて体を温めましょう」

そう言って、一、二、と前後に動きながらの素振りを始めた。
暫くの間、二人が素振りを数える声と木刀が空を切る音だけが道場内に響いた。

「だいぶ慣れてきたみたいですね、見栄えも良くなってきましたよ」

「あ、ありがとうございます。沖田さんが丁寧に教えて下さるから・・・」

すっかり体も温まった頃、横から素振りを確認した沖田が夢主を褒めた。
少し照れくさいが嬉しい。丁寧な指導に頭を下げると、沖田は夢主の前に回り、切っ先を向けた。

「えっ」

「夢主ちゃんも僕に向かって構えて下さい。安心して、形だけだから」

「は、はぃっ・・・」

打ち込まれはしないだろうが、目の前の美しい構えに夢主は緊張した。
沖田はとても真剣な目をしている。遊びで言ってるのではない。
夢主は応じるように静かに木刀を構えた。

「いいですね・・・上手ですよ」

ふっと優しく笑んで呟き、沖田はすっと体重を前に移して木刀を突き出した。
夢主の木刀にぶつけ小さくコツンと音を鳴らす。
何か手ごたえがあったのか、沖田は微笑んで木刀を下ろした。

「ちょっと待ってて下さい」

「あっ」

「すぐ戻ります」

そう言うと沖田は木刀を持ったまま足早に道場を出て行った。

「ど・・・どうしたんだろ・・・」

粗相はなかったはず。
ただの休憩?厠かな・・・。ほんの短い時間、あれこれ考えながら待っていると、摺り足の音が戻ってきた。

「さ、斎藤さんっ・・・」
 
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