斎藤一京都夢物語 妾奉公

□27.墨の黒と、紅の赤
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「寒ぃ・・・」

朝、夢主は目覚めて冷たい空気に体を縮めた。
暖かい布団から出たくないがそうもいかず、仕方なく起き上がると体のあちこちがギシギシとぎこちなく、動く度に痛みが生まれる。

「き、筋肉痛・・・」

体の鈍りを指摘されたようで恥ずかしい。
いつもと変わらない一人残された部屋。着替えを済ませて外に出れば、冬の朝の尖った空気が肌を粟立たせる。
ふるっと身震いしてから座敷へ向かった。

夕べ斎藤に窘められた。普段通り振舞えば良い。その通りだと自らに言い聞かせるが緊張は消えない。
座敷に足を踏み入れると、皆の目が一斉に集まった。
突き刺さる視線が恥ずかしく、すぐに下を向いてしまった。

「ぁっ・・・お、おはようございます」

俯いて挨拶をして、普段より小さな歩幅でおずおずと進み斎藤の隣に腰を下ろした。
座るまでの一連の動きを全ての者が目で追っていた。

「お、おはようございます、斎藤さん、沖田さん」

「あぁ」

「おはよ〜!今朝は特に冷えますね」

夢主は両隣の二人の顔色をちらりと交互に目に入れる。いつもの二人だった。
周りの方がそわそわと落ち着かない。向いたままの視線、男達の態度に夢主はどんどん恥ずかしくなっていった。

「夢主ーー!!夢主!夢主〜〜・・・」

突然響いた情けない声。後からやってきた藤堂が真っ直ぐ向かって来た。
両手でぐっと夢主の手を握り名前を繰り返す。

「お、おはようございます・・・ど、どうしたんですか・・・」

強く手を握られ、ドキドキしながら藤堂を覗く。左右からの視線も気になった。

「だってよぉ、夢主ーーぅうっ」

藤堂は片手を離すと涙を拭う振りをして見せた。

「ははっ、そこまでだ平助、ほらこっち来い」

ううっと鼻をすする藤堂を永倉が掴み、ずるずると引っ張って行った。
一緒にやって来た原田が笑って夢主の頭に二度、ぽんぽんと触れた。

「ははは、大変だな夢主」

「ぁはっ・・・藤堂さんどうしたんでしょうね・・・」

大きな手に少し緊張が解れる。それでも作り笑顔が引き攣る夢主を斎藤達は笑った。
 
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