斎藤一京都夢物語 妾奉公
□30.君の行方、その想い
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「髪は下ろしたのか」
着物は先程のままなのに、日本髪は解かれていた。
「はぃ・・・実はもう着替えようかと思ってたんです。でも斎藤さんがお酒を探してるってお家の方がいらっしゃったので・・・女将さんがそのまま行きなさい・・・と」
夢主が意味ありげに頬を染めて俯いた。
女将に何か言われたな。全くここの連中はみんな揃いも揃って何を期待してやがる。斎藤はそう思わずにいられなかった。
「ほぅ。それで、何故に嘘を吐く」
「っ・・・」
紅潮した顔で口元をきゅっと締め、夢主は斎藤に上目遣いで恨めしそうな視線を送った。
「わかっちゃうんですね」
「すまんな、剣客をしていると嫌でも分かってしまうのさ。特にお前みたいな単純な奴の嘘はな」
口角を上げたニヤリとした笑み。
夢主は視線を下げて、参りましたと息を吐いた。何かを誤魔化し、指先を絡ませていじりながら打ち明ける。
「っ着替えようとしたのは嘘です。お、女将さんが・・・その、変なことを言うので、もう結構ですって自分で髪を降ろしちゃって・・・そしたら呆れながらも、分かったわよって髪を綺麗に整えて下さって・・・」
「変なこととは」
「き・・・聞かないでくださいっ・・・」
耳まで真っ赤になって顔を逸らすさまを見れば、おおよその察しはつく。
また色事の話でもされたのだろう。
実際、夢主は女将に「誰なんや、いい人がおますやろ」と問い質されていた。
奥の間を貸すので、名前を言えば連れて来てやる。
他の連中はどうせ座敷から出ないので二人でゆっくり呑み直せとの事だった。
──あの人らは羽振りもよぉなって、いつえぇひとを作って囲うか分からへんでぇ
それにいつまでここに居るかも、命あるかも分からへんのや
あんたここから出られへんのやったら、せめてここで好ぃとぉお人と幸せになりなはれ
一緒にいられる間だけでも、大事にしてもらわなあきまへんぇ!!
あんさんも女や。女の幸せを、手にせなあかん──
夢主の耳には女将に聞かされた言葉がこだましていた。
「まぁいい。見当は付くさ。それより今日はお前の分は無いのか」
盆の上には徳利数本と、猪口一つ。もちろん斎藤の分だ。