斎藤一京都夢物語 妾奉公

□31.お餅つき
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この時代、新年が迫ると餅の準備が欠かせない。
新選組が屯所にしている前川邸や八木邸も例外ではなかった。

餅つきが行われる日、支度を整えた夢主が中庭に出てみると既に臼と杵が用意され、手馴れた使用人達が蒸されたもち米を杵で丹念に潰していた。

「出来ました!さぁ皆さん、出番ですよ、後はお任せします!」

使用人の声を合図に、待機していた新選組の幹部の男達が、待ってましたとばかりに、ぞろぞろと集まってきた。
寒さなど関係なく皆気合が入っている。

「みなさんがお餅をつかれるのですね」

「おぅよ、俺達に任せとけ!!」

夢主は楽しみとばかりに両手を合わせて声を弾ませた。
原田は力こぶを作って臼の前に進み、ガバリと一気に着物を開け上半身を晒す。
それを合図に男達は袖から腕を抜き、次々と諸肌を脱いでいった。
夢主は予想だにしない皆の行動に戸惑い、体を硬直させた。

「ひっ・・・ひゃぁぁあっ・・・みなさん、な、なにをぉ・・・」

「何ってお前、着物が邪魔だろうが」

「さっ・・・」

気付くと斎藤までもが諸肌を脱いでいた。

部屋で何度も目にしているが、日の明かりの下、堂々と肌を見せるさまに胸の奥で大きな衝撃を受けた。
鍛え抜かれた体を晒して立つ斎藤の姿に、鼓動が激しくなる。顔を背けずにいられなかった。

「襷を掛けたらいいのに・・・」

「暑いんだよ」

夢主の素朴な疑問に対して斎藤は短く言い捨てた。
確かに臼の中の餅米は熱い蒸気を上げている。そんな場所で体を動かせば体温は一気に上がり、のぼせてしまう。

「おうよ!どんどんつかなきゃなんねぇんだからよ!!お供え分からこの辺りに配る分、俺達が食う分まで山ほどつくんだぜ!!」

原田は我先にと杵を手にした。

「おい、夢主。危ねぇから下がってろよ」

夢主を下がらせたのは土方だった。土方までもが諸肌を脱いでこの騒ぎに参加していた。
夢主を睨み下ろすように見ながらも、気遣いの言葉を述べる。
優しい言葉に会釈を返す夢主だが目に入るのは衣を纏わぬ上半身。夢主は土方からも目を背けた。

気付けば目の前には鍛え抜かれた分厚い筋肉質な体がずらりと並んでいる。
ある者は腹に、ある者は腕に、そして多くの者が体中に刀傷を負っている。
鍛練と戦いで作り上げられた逞しい体に夢主は見惚れてしまった。
頼もしい肉体でありながら傷だらけなのは、命を張っている証。

「あ・・・」

感慨深く眺めてしまうが、男の肌の並びに我に返り、夢主は俯いて火照った頬を両手で覆った。
そのまま駆け出して皆から距離を取った。
 
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