斎藤一京都夢物語 妾奉公

□33.おめでとう
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年末の楽しい仕事も終わり、辺りに響く鐘の音を聞きながら、斎藤と夢主は二人、部屋で寛いでいた。
夕餉も済ませて寝巻きに着替えた。あとは時が来れば寝るばかり、そんな空気が流れている。

「みなさん出立も近いのに、騒いでいて大丈夫なんでしょうか・・・」

食事が終わった後も座敷に居座り呑み続ける者や、初詣や初日の出だと屯所を出て行く者がいた。
一日空くとは言え大事な将軍警護の仕事が控えている。

「今宵は大晦日。騒いで新年を迎える者も昼には落ち着くように言われているが、どうだか」

見事に隊務を忘れ、めでたい気分で浮かれる何人かに斎藤は呆れていた。

「斎藤さんはよろしいのですか」

「何がだ」

「あ・・・いぇ・・・初詣とか・・・初・・・日の出・・・お酒?」

斎藤は姿勢を崩さず背筋を伸ばして座っている。気持ちは既に次の仕事に向いていた。
屯所に控えて当然といった真面目な態度に夢主は自分が恥ずかしくなった。

「ごめんなさぃ・・・」

小さくなり謝る夢主を斎藤はふっと笑った。

「行きたいのか」

「えっ」

特別行きたい訳ではないが、斎藤が行くなら一緒に行きたい。
訊ねられて不意に「嬉しい顔」になってしまった。

「壬生寺、行くか」

「っ・・・はいっ」

二人は揃って立ち上がり、寝巻きの上に綿入りの上着を羽織って顔を見合わせた。
斎藤は心なしか悪戯な顔をしている。すぐ近くとは言え夢主を自分ひとりで連れ出すのだ、土方に咎められるかもしれない。
しかし屯所内の無礼講な空気が斎藤の生真面目な気質を少しだけ緩めていた。
どうせ隊士達もいるだろうし幹部も誰かいるだろう、そんな思いもあった。

「寒くないか」

「はいっ」

夢主は寝巻きに羽織だけの恰好が少しはしたないと思いつつ、悪い事をしているようで気分が高揚した。
部屋から出て、斎藤の早足に小走りでついて行く。
屯所から出る時には斎藤の早足は落ち着き、後ろを確認すべく振り返った。
夢主が自分のすぐ隣まで追いつくのを待ってから斎藤は歩き出した。

日暮れと共に初詣を始める人々がいたが、それ以降寺を訪れる人は絶えていない。

部屋まで聞こえていた賑やかさの中を通り抜け、壬生寺の山門をくぐると新選組の隊士達がちらほら確認できた。思わず夢主は一歩下がって斎藤の後ろを歩いた。
夢主を連れる斎藤に遠慮しているのか、隊士達は通り過ぎる二人に声は掛けず、遠目から姿勢を正して挨拶をした。

こうして見ると斎藤は確かに新選組の幹部なのだ。改めて認識させられた気がした。
頭を下げる隊士達に目で挨拶を返し通り過ぎる斎藤に対し、夢主は代わりを務めるように会釈をして歩いた。
 
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