斎藤一京都夢物語 妾奉公

□36.文を囲んで
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斎藤は新選組の陣に戻り、大部屋の隅で座ったまま、うつらうつらと仮眠を取っていた。

やがて短い休息を終え、誰よりも早く目を覚ました。
外を覗き、眩し過ぎる朝の光に手をかざして顔をしかめる。
清々しい日差しを嫌うように、胸の中で何かが騒いでいた。

暫くして他の隊士達も次々と目を覚ました。
寝ずの番をしていた隊士達との交代などで周りが騒がしくなる。
斎藤は体を解そうと、大小の刀を脇に置いて腰をひねったり肩を回したり、体の調子を整えた。

「斎藤さん!おはようございます、戻ってたんですね!」

白い朝の空気が似合う爽やかな笑顔で沖田が寄ってきた。
斎藤はその笑顔を少々忌々しく見るが、黙って小さく頷いた。

「斎藤さん・・・ぷ・・・ぶははははっ!なんて顔してるんですかっ、くくくっ、花街行ってきたんですよね」

花街に行ったならば普通は爽快な顔を見せるものだが、斎藤の表情は晴れなかった。

「うるさい」

悪態を吐きながら斎藤は脇差を腰に差した。

「もう澱みにはまっちゃってる感じですね、あははははっ」

いつもは気を晴らしてくれる沖田の笑い声も今は癇に障る。
心情を言い当てられた斎藤はもう一振りの刀を手に取りながら沖田を睨んだ。

「夢主ちゃんを裏切りましたねーって揶揄おうと思ったのに、これじゃぁもう充分に罰を受けてるって感じで・・・ぷふふふ」

沖田に斎藤を責める気は無かったが、やはり面白くない部分もあり、ちょっとは揶揄ってやろうと思っていた。
しかしその気も失せてしまった。
昨日の男の鬱憤を抱えた顔付きとはまた違う、いつも冷静な斎藤らしからぬ今朝の顔付きが面白くて仕方が無い。
沖田は我慢したくても堪えられないと、笑いを漏らしている。

「沖田君、まさか俺がこうなると予想して勧めたのか」

「まさかぁっ!!でも斎藤さんが女の人を抱いてこんな顔になるなんて・・・くくくくっ、可笑しくて可笑しくて・・・ぷぷぷぷっ」

「ちっ、貴様斬られたいか」

舌打ちをした斎藤は手にある刀の鯉口を切る振りをした。

「おぉ〜斎藤さんに貴様呼ばわりされるとはっ、怖いですねーっ」

沖田は両手を上げて大袈裟に驚いてみせた。それから斎藤の苦悩をよそに腹を抱えて笑い転げた。
その騒がしさに土方や永倉が寄って来る。

「何やってんだ」

そう言いながら土方は斎藤に「戻ったか・・・」と頷きかけた。
だが斎藤の様子に土方の顔も晴れない。

「いえね、斎藤さんってば、どんな顔して帰ってくるのかと思えば・・・あはははははっ」

土方に訊かれるも、沖田は笑いが込み上げて言葉が続かない。
目尻に涙を溜めて笑っている。

「ちっ」

「総司落ち着けよ、何がそんなに可笑しいんだ。って、斎藤、お前ぇ何があったんだよ」

永倉は沖田と対称的に顔を引き攣らせて不機嫌にしている斎藤に驚いた。
視線を受けた斎藤は永倉ではなく、隣で腕を組む土方を見た。
 
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