斎藤一京都夢物語 妾奉公

□37.手土産
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やがて夕御飯を終えて、家の皆が入った後の風呂を借りた。
まだまだ寒い季節だ。体を温めてくれる湯がありがたい。髪も洗い全身をすっかり清める事ができた。

ちゃぷ・・・・・・

「気持ちいぃ・・・」

ほかほかと湯気が上る湯船、夢主は目を閉じて浸っていた。
体中が温まり肌もほんのり色づいていく。

「そろそろ上がろうかな・・・」

これ以上はのぼせてしまいそうだ。
湯船から体を出した瞬間、昼間の恐怖と似た感覚が体を駆け抜けた。

「だっ、誰かいるの・・・・・・」

咄嗟に湯船の中に戻り、恐る恐る狭い風呂場の中を見回した。もちろん誰もいない。
腰を上げて小さな窓格子から外を窺うが、やはり誰もいなかった。

「っ・・・気のせい・・・なんだよね・・・」

ぞくりと感じた怖さに、温まったはずの体が冷えていく。
急いで体を拭いて寝巻を羽織り、濡れた髪のまま部屋へ急いだ。

慌てて戻り部屋に入ると、いつもと変わらぬ様子に幾らか気持ちが落ち着いた。
斎藤の存在を感じられる空間が心を落ち着かせる。
改めて周囲を確認するが誰の気配も感じない。
夢主は安堵して髪をしっかり拭こうと新しい手拭いを取り出した。

その時、カタ・・・小さく硬い音が耳に届いた。
音は部屋の外から。夢主は怖々と障子を返り見た。
何の影もなく、隙間も開いていない。

「誰か・・・帰ってきたのかな・・・」

先陣の帰還かと、そっと障子に近付き外を覗いた。
しかし先程と変わらず、人がいる気配は無い。

「・・・猫・・・とか・・・」

夢主は体が出せるくらいまで障子を開いた。
廊下に出る際、肩に掛けた手拭いが落ちたが、夢主は気付かなかった。

「そういえば猫にご飯あげてる土方さんとか、そんなお話があったなぁ・・・」

この屯所にも迷い猫がいるのかもしれない。
庭を見回した。やはり何かがいる気配はない。

「やっぱりいないよね・・・あっ、寝巻が濡れちゃってる・・・また着替えないと」

夢主は気を取り直して部屋に戻ろうと体を反転させた。

「!!」

再び部屋の中へ足を踏み出そうとした途端、肩にずしりと重たい何かを感じ、全身が固まった。
背筋に悪寒を感じ、濡れて冷たいはずの首筋に奇妙な温かさを感じた。
 
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