斎藤一京都夢物語 妾奉公

□46.お花見
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それから暫くの間、沖田や土方は多摩の名主の宿を訪れたり、酒席を設けては交流を繰り返していた。

後に夢主が聞いた名は日野蓮光寺村の名主・富沢忠右衛門。二ヶ月に渡り京に滞在する事になる。
近藤の良き理解者で支援者でもあり、試衛館縁の面々は懐かしさと共に喜んで迎えていた。
時折、夢主は沖田に小宴への同席を誘われたが、気後れすると毎回丁重に断わっていた。

「行きたいのなら俺に気を遣わずに行って来いよ」

斎藤は優しい言葉を掛けてくれるが、斎藤の居ない席で酒を含んでしまうかもしれないと思うと、どうしても行く気にはなれなかった。

季節は進み、梅から桜の季節へと変わっていた。
屯所の中からも外にある桜の木が見える。
この季節を待っていましたとばかりに、沖田に花見の酒宴に誘われた。しかし名主富沢との酒宴だ。

「お花見・・・ですか」

「えぇ、今日は近藤さんも一緒なんですよ、ね、いいでしょう」

「近藤さん・・・」

近藤が一緒ならば断ってはまずいだろうか。
夢主は頭を悩ませるも、自分の気持ちに正直に従った。

「でも局長の近藤さんが一緒だなんて恐れ多くて・・・その、近藤さんはとても威厳があるお方で近づくのも恐縮で・・・やっぱり遠慮したいです」

あまり顔を合わせない近藤だが、がっしりとした体つきで、尚且つ堂々とした風格を持っている。
その姿を目にする度に夢主は萎縮していた。

「そうですか・・・土方さんも一緒なんですよ」

沖田は土方の名も出した。
落ち着いて話す機会は少ないが、夢主を気遣い最近はとても優しく接している。

「土方さんは・・・その・・・そんなですし・・・」

上手く言葉が出てこず土方を妙な形で誤魔化してしまった。
酒に酔った土方は見たことが無いが、やはり酔いというのは怖い。
女好きの男が酒でどう変わるか分からないのは不安だ。

「そうですか・・・残念だな。また一緒に桜を見に行きましょうね!」

「はぃ、ぜひ。沖田さん、楽しんできてくださいね」

断わられた沖田はハハッと苦笑いで頷いた。
夢主は近藤に遠慮した訳でも土方を避けた訳でもない。
ただ、斎藤がいないから・・・そういう事だ。

沖田は淋しげな笑顔で去って行った。
 
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