斎藤一京都夢物語 妾奉公

□39.眠ったままに
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土方の命で二つの捜索が開始されてから何刻も経過した。
陽が暮れ始めた頃、伏見に慌てて駆け込んで来る者がいた。

「土方さん!伝令です!刃衛の方です!!」

先に届いた伝令は鵜堂刃衛を捜索する隊士達からだった。

「見つかりました、奴は京の東の小さな社に潜んでいます!応援をお願いします!!」

「そうか、分かった。腕の立つ隊士を三人連れて行け。あいつは粛清だ・・・捕らえずとも構わねぇ。俺達は明朝ここを出立する。お前達も事が終わったらそのまま屯所へ帰還しろ、いいな。困ったら使いを寄越せよ、命を捨てに行くんじゃねぇ」

「はいっ!!」

土方は鵜堂刃衛の粛清を命じた。だが無理はするなと釘を刺した。隊の戦力を失いたくない。隊士達の命を優先させたかった。
新選組が本当に働くのはこれからだと土方は睨んでいた。

一方で夢主の捜索に向かった隊士からの連絡は一向に無かった。
時折、沖田が斎藤や土方の顔色を窺って確認するが、待つしかないと目で諭された。

「早く・・・京に入りたい」

沖田は足を向けた先をずっと見つめていた。
暮れゆく向こうの京の空を眺めているしか出来なかった。


夜が明けた京では小萩屋を出た緋村がさっさと用事を済ませるべく、人通りのない裏路地を西に向かって進んでいた。

「新選組のいる伏見に届けるなどわざわざ敵の懐に向かう意味が無い・・・師匠のもとは尚更・・・奴らが不在ならば壬生に直接・・・それが夢主殿の望みだ・・・」

壬生へ向かう道すがら、すれ違う者は殆どいなかった。
やがて新選組の屯所に近付くが、隊士らしき気配は全く感じられない。

「やはり奴らはいないようだな」

物陰から様子を探る緋村は、夢主を外に捨て置くか中まで運び入れるか考えていた。
屯所の中も静かだ。今なら侵入も容易い。

その時、不意に中から小さな男の子が飛び出して来た。八木家の子供だ。
咄嗟に緋村は体を出し、子供を呼び止めた。
家の者への言付けを頼み、最後に微かに笑い掛ける。
目を閉じた夢主の顔を見せ、手の縄は見えないように自らの着物の裾で隠した。

「いいか、俺の事は『しぃ』だぞ。お姉ちゃんをよろしく頼む」

「うん!わかった!!」

男の子は出てきた時と同じように元気一杯、今度は向かい家の前川邸の中へ走っていった。
その姿が完全に消えるのを確認し、緋村は屯所の門前に夢主を横たえて姿を隠した。
 
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