斎藤一京都夢物語 妾奉公

□40.小さな変わり
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斎藤の部屋では三人が静かな寝息を立てていた。
浅い眠りの斎藤、やや深い眠りの沖田、ぐっすり深い眠りにある夢主。

布団に横たわった夢主は、沖田はその少し離れた場所に自らの手枕で横たわり、斎藤は二人に気を配り守るよう入り口に座って眠っていた。


時が流れ、斎藤は自ら眠りから意識を引き戻した。

斎藤は夢を見ていた。
黒い刺客に囲まれて襲われ続ける夢だ。

夢の中で我武者羅に剣を振っていた。
相手の刃を受けても、鉄がぶつかる感触はない。
どれだけ斬って返り血を浴びようとも、血の生ぬるさを感じない。音もなく臭いも無い。
すぐに夢だと気が付いた。

妙な事に、自分が動く度に感じる空気の流れと肌に受ける風だけは、はっきり感じていた。

黒い刃に命を脅かされるが、不思議と嫌な感じはない。
返り血を浴びる度に、まるで水を浴びるような清々さを得た。

四方八方から伸びる幾つもの黒い影、そこから飛び出す無数の刃、受けて弾いて斬り伏せる。
何度も繰り返していくうちに、やがて黒い影は刺客から妖しく絡みつく妖艶な影に変わっていった。

幾つもの黒い妖女に纏わりつかれ、これは幾ら刀を振っても斬り伏せられず、振り払っては戻ってくる影にただただ抗うしかなかった。

「えぇい、面倒臭い!!」

夢の中で刀を投げ捨てると、斎藤は現実に引き戻された。


最初は気分の良い夢だったが、最後はなんとも後味が悪いものだった。

「あの後、俺はどうするつもりだったんだ」

刀を放り出し妖女に身を捧げていたのだろうか。
こちらから押し倒していただろうか。
それとも・・・全てを放棄していたか。

「刀を捨てるなど・・・夢だな、フッ」

現実では起こりえない行動を自嘲した。

どうでも良い夢にケリをつけて時間を持て余していると、外が騒がしくなってきた。

「戻ったか」

将軍に付き添い入京した新選組の隊が、任務を終えてようやく屯所に戻ってきたのだ。

「騒がしくなるな。フンッ、すぐに起きるだろう」

充分に眠った夢主と沖田の姿を見て斎藤は小さく笑った。
 
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