斎藤一京都夢物語 妾奉公

□41.嫉妬
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斎藤の部屋で再び眠りについた夢主は、結局辺りが暗くなるまで眠り続けた。
目覚めると布団から出た肩が冷たく、ひやりと痺れる寒さを感じる。

「随分と寝ていたな」

「斎藤さん」

昼間と変わらず、斎藤が傍にいた。
目にしていた本を閉じて夢主を見た斎藤は、声に翳りを感じるほど静かに続けた。

「沖田君もずっといたぞ。ずっとお前を見ていたな」

「そうですか・・・明日、お礼を言わないとですね、ふふっ」

抱きつく為に待っていたとは思わず、夢主は心配して見守ってくれたと素直に受け止めた。
斎藤の瞳がもの言いたげに動いたが、夢主は気付かなかった。

「斎藤さんも・・・ずっといて下さったんですか」

「まぁな。俺の部屋だからな」

「ぁっ」

自惚れた発言になってしまった。
恥ずかしくなった夢主は顔を赤くして背けた。

「まぁ沖田君の部屋にお前がいても俺はいたかもしれんな。それでいいか」

「っ・・・はぃ・・・」

満足いったかと首を傾げられ、夢主は気まずく頷いた。
ちらりと顔色を窺うと斎藤は淡々としている。

「風邪と言っていたが調子はどうだ」

「もうすっかり良くなりました。熱が凄くて向こうではずっと寝ていました・・・」

「そうか」

長州の隠れ処を向こうと呼ぶ違和感。
斎藤は目を伏せた。

「何もされなかったか」

この件を知ってから気になっている事がある。
他の皆も気にしていたが言い出せなかった事。
明確にせねばならぬ事。
斎藤はを確かめようとしていた。

「はい・・・別に何も・・・」

夢主は先程も皆に訊かれて何度も答えたのにと、戸惑いながら頷いた。
斎藤の真剣な様子に、何かが引っ掛かっているのだと気付く。

斎藤は落ち着いたばかりの夢主を傷付けぬよう、言葉に困りながらも明らかにせんと問いをぶつけた。

「男が女を連れ去ったんだ。女としての、辱めはなかったか」

「はっ・・・はぃっ・・・そんな事は、何もっ・・・」

辱めの意味する所を想像して赤くなった夢主は、恥ずかしさを誤魔化してぎこちなく笑った。

「そうか・・・良かった」

心からそう思うと、斎藤は落ち着いた声でゆっくり息を吐いて呟いた。
その顔を見て、心から案じられていたと知り、夢主の胸の奥が熱くなる。

確かに最初はそんな恐怖も感じた。
それでも視界が開けた先にいたのが緋村剣心だったので、最後は願いを遂げられたのだ。
皆に説明出来ないもどかしさが悔しい。

「斎藤さん、私を開放してくれたのは人斬り抜刀斎・・・なんですよね」

意識を失っており夢主自身も確証は無い。
だがそれ以外は考えられなかった。
 
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