斎藤一京都夢物語 妾奉公

□42.夢の続き
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斎藤は巡察を終えて屯所に戻り、血塗れた羽織りを平隊士に手渡し、汚れた体を拭き清めた。
沖田との会話は結局、斎藤がまともに返事をしないまま沖田が一方的に話し続けて終わった。

部屋に戻ると夢主はぐっすりと眠っていた。
衝立の向こうを覗かなくとも、穏やかな寝息が聞こえてくる。

その様子に安心した斎藤は刀を下ろして静かに着替えを済ませた。
布団の上に座り、ぼんやりとその白さを眺める。
夢主が立てる小さな音に耳を澄ましていた。

「フッ・・・」

不意に笑みを漏らし、斎藤も己の布団に体を入れた。
落ち着いている己の気持ちと体に満足していた。

「ふふっ・・・」

斎藤の笑みに反応するように、眠る夢主から笑いが漏れた。
驚く斎藤だが、横になったままニヤリとしてそのまま目を閉じた。


その夜、夢主は不思議な夢を見ていた。
斎藤が目の前で戦っている夢だ。

目の前なのに、とても遠く感じる。
それに斎藤の命が脅かされているというのに、不安を全く感じなかった。

夢主は暫く不思議な夢を見続けていた。

部屋に陽が差し始め、目覚めた夢主は思わず衝立の向こうを覗いた。
同じ頃に目覚めたのか、斎藤もまだ布団に体を半分を入れていた。

「ぁっ、おはようございます・・・あの・・・ふふっ。実は」

着替えの為立ち上がろうとした斎藤だが、夢主がクスクスと笑って話し始めたので、立つのをやめて耳を傾けた。

「私、面白い夢を見たんですよ。斎藤さんが遠くで黒い人影と戦って暴れているんです。一生懸命に刀を振ってて」

「っ、ほぉ」

斎藤は覚えのある夢に布団から体を出して反応した。
無意識に布団の上に胡坐を掻き、聞く姿勢を整えた。

「斎藤さんは、何回も何回もその黒い影をやっつけてるんですけど、きりなく襲ってくるんです」

夢主は作ったような真面目な顔で、斎藤を見つめて語っている。

「それで気が付いたら、その影も斎藤さんもいつの間にか近くにいて、斎藤さんの周りの影が形を変えて・・・斎藤さんが、いつの間にか綺麗な女の人達に囲まれていたんです。寄ってたかって襲われ・・・襲われているように見えたんですけど・・・きっと違うんでしょうね、ぅふふっ」

夢主は斎藤から目を逸らし、口元に手を当てて楽しそうに笑った。
続きを思い出そうと少し上を向き、口を隠したまま話を続ける。目元はにこにこと緩んでいた。
 
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