斎藤一京都夢物語 妾奉公

□43.いけない事
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大坂での将軍護衛から戻って数日、屯所もすっかり落ち着いている。
斎藤と沖田が夜番専任になり、昼は自由な時間が生まれ、共に過ごす事が出来る。
そう期待していたが、以前と同じく非番の日以外は二人とも稽古や会議、用があると外に出ては昼間も忙しく動き回っている。
非番の日はまだ回って来なかった。

「はぁ・・・一緒にいられると思ったのに・・・忙しそぅ」

夜に出て行ってしまう分、今までより離れている気分だ。

「これ、どうしよう・・・」

夢主は皆が大坂にいる間に仕上げた着物の直しの山を抱えていた。全て平隊士の物だ。
いつもは斎藤に頼んで稽古の際に渡してもらうが、ここ数日忙しそうな姿に声を掛け損ね、頼めずにいた。
仕方なく自ら着物の山を抱えて道場へと向かった。

昼飯後も幾つかの隊が熱心に稽古をしている。
道場の入り口に立ち、邪魔にならないよう中をそっと覗いてみた。

中では永倉と原田の隊が稽古をしていた。
もっぱら指導するのは永倉で、原田はその様子を眺めている。

「おっ、夢主じゃねぇか、どうした」

その原田が夢主に気付いて寄ってきた。

「あの・・・隊士のみなさんから預かっていた着物が仕上がったのですが、斎藤さんこの所忙しいみたいでお渡しをお願い出来なくて・・・直接お渡しをと思って道場を覗きに来たんです。あの、原田さんからお願いできますか」

そう言って両手で抱えた着物を原田に見せた。
接触を控えろと言われているのだから、自分で渡すより幹部の誰かを通したほうが良い。

「おぉ、沢山頑張ったな。すまねぇ。みんな喜ぶだろうよ」

原田は夢主の頭を撫で、着物の山を受け取った。原田が抱えると着物の山が小さく見える。

「斎藤はそんなに忙しそうなのか」

「はぃ・・・なかなかお部屋に落ち着いていらっしゃらなくて、声を掛けそびれてしまって・・・」

「そうか。そいつは淋しいな」

淋しそうに下を向く夢主、原田は同調した淋しげな顔で慰めた。

「それでは私はこれで。お着物、よろしくお願いします」

夢主は苦笑いで誤魔化し、道場を後にした。

斎藤の姿を探しながら部屋に戻るが、やはり外に出ているのか、見当たらない。

「夜の巡察前には戻る・・・よね」

夢主の呟き通り、日が沈みかけた頃に斎藤は戻ってきた。
 
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