斎藤一京都夢物語 妾奉公

□44.本気のお稽古
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この日、夢主は夜まで空いた時間、沖田に稽古をつけてもらう約束をしていた。

以前、斎藤にも約束を取り付けたが、冷静に考えて後悔していた。
斎藤に指導されるのは抵抗がある。
体に触れられては気まずいし、下手くそな姿を見せるのも気恥ずかしい。
かと言って今更断るのも失礼だろうと迷っていた。

・・・どうしよう・・・あの時はついお願いしちゃったけど、斎藤さんに見てもらうの恥ずかしい・・・それに物凄く厳しそう・・・

密かに斎藤の様子を窺うと、どうやら今日は時間がありそうだ。
とりわけて仕事に取り組んでいる様子は無い。
約束の時間が近付き、夢主は練習着に着替えるしかなかった。

「あの・・・斎藤さん・・・」

斎藤に声を掛ける。
申し訳ないが一旦部屋から出てもらわねばならない。そしてそれを告げれば稽古がばれてしまう。
躊躇したが、素直に退出を頼んだ。

「これから沖田さんにお稽古をつけてもらうので・・・着替えたいんです。・・・お願いします」

「あぁ、稽古か。いいぞ」

そう返事をすると斎藤は素早く立ち上がり部屋の外に出てくれた。

「いいぞ・・・って稽古に付き合ってもいいって事なのかな・・・」

斎藤がどうするつもりなのか考えると緊張してしまう。
着替え終えて、すぅと障子を開くと外で腕組みをして待つ姿が見えた。

「あのっ・・・ありがとうございました。・・・その・・・・・・行ってきます」

大きく頭を下げ、夢主は小さな音を立てて小走りで去って行った。

斎藤は少し前だが、確かに一緒に稽古を見てくれと頼まれた事を思い返していた。
夢主は忘れているのか、それとも。

「なんだ、夢主のやつ気を使っているのか。それとも俺に来て欲しくないのか」

思い付いたように呟き、斎藤は悪企みを含んだ笑みを漏らした。

「今更になって気後れしたか」

夢主を見送った後、斎藤はにやにやしながら自らも道着に着替え始めた。
 
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