斎藤一京都夢物語 妾奉公

□45.眠れない刺激
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斎藤に薬を塗って貰った夜。
夢主は布団に潜り込むもなかなか眠りに落ちる事が出来なかった。
暖かい布団の中で寝返りを打っては自分の手を擦っていた。擦るたび、斎藤の手の感触が蘇る。

「あぁ・・・早く寝ないと斎藤さんが帰ってきちゃう・・・」

目を閉じて暫く経ち、薄っすら目を開けては、眠れずにいる自分を確認した。

どれくらい時間が経ったのだろうか、斎藤はまだ戻らない。
ようやく夢主の瞼が重くなってきた。

・・・ぁ・・・やっと寝れそぅ・・・

意識を失い始めた頃、床板が鳴る音に気付いた。音は近付き、どんどん大きくなる。
途端に胸の激しい鼓動が始まり、一気に目が冴えてしまった。

・・・斎藤さんが帰ってきちゃった・・・どうしよぅ・・・

斎藤が帰るまでに眠らなければと義務に近い感覚を持っていた。
いつも先に寝るよう言い付けて行く。
自分を案じてくれると共に、夜の巡察帰りには顔を合わせたくないのだと感じていた。

血汚れている姿を見せたくないのか、その臭いを悟られたくないのか、それとも・・・。

夢主は先程感じた眠気を思い出そうと目を閉じた。意識を消そうと試みる。
寝た振りをしていればきっと眠れるはずと、そのまま瞼を閉じて布団に身を潜めた。

汚れを落として自室に戻った斎藤は、いつも通り部屋に入ると衝立に目をやった。夢主の様子を窺う為だ。
微かに緊張した気配を感じる。

・・・夢主・・・起きているのか・・・

斎藤は横目に衝立を見ながら寝巻を手に取った。
寝支度を整えつつ気配を窺うがやはり微かに気配を感じる。しかもいつもと少々違う。

・・・いつもの穏やかな寝息が聞こえん・・・

斎藤は自らの布団の上に座り、見えない隣の布団に目をやった。
寝た振りをしているのか、衝立の向こうに夢主の姿を想像した。

・・・俺にばれまいかと緊張しながらも寝た振りをしているのか・・・賢いな・・・

斎藤は暫く表情を変えずに様子を探った。

昼の陽の中と夜の闇の中では誰しも心持が変わる。
夜の激しい巡察帰りなら尚更。
昼間なら顔を出し挨拶をして出迎える夢主だが、今は賢くわきまえているのだろう。

斎藤はフッと笑みを漏らした。
だが布団に体を入れようとした時、ふと大坂での土方の一言が脳裏に浮かんだ。

――さっさと自分のものだと知らしめちまえよ・・・

「・・・何を」

何かから目を逸らすように伏目がちに言うと、暫く一点を見つめた。
それからゆっくりと腰を上げた。
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