斎藤一京都夢物語 妾奉公

□47.どこへだって
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酒を楽しんだ翌日。
自分の布団で目覚めた夢主、心も体も晴れやかで気持ちのよい朝だった。
いつも通り斎藤は朝稽古に出ており、ひとり着替えを済ませて部屋を出ようとした時、ある事を思い出した。

「あっ・・・ワンピース・・・」

布団の周りを確認しに戻るがそれらしいものは無かった。

「昨日どうしたかなぁ・・・」

おぼろげな記憶を辿ってみる。
脱いだところまでは覚えているものの、その後どうしたかは全く思い出せない。

「うぅん・・・斎藤さんが片付けてくれたのかな・・・」

斎藤の文机周辺を見るが、ワンピースが入っているはずの白い布の包みは見当たらなかった。

「斎藤さんの葛籠の中かな・・・また聞いてみよう」

以前、勝手に覗いて輝くような美しさ褌の数々を目にしてしまった。
夢主は思い出して探し物を止めた。

座敷に入り、先に箸を取っている斎藤に訊ねてみた。

「斎藤さんあの昨日の・・・」

「・・・」

すると斎藤は夢主を止める時によく行う、手を向ける仕草をして見せた。

「ぇっ・・・と・・・」

不思議に思い顔を覗き込むと、斎藤は無言で小さく首を振った。
この話はいかん・・・
斎藤の目に気付き、夢主は頷いて大人しく自分の食事を始めた。
今更皆にあの服の存在を思い出して欲しくないのだろう。

「どうかしたの、夢主ちゃん」

二人の不思議なやりとりを見て、沖田が声を掛けてきた。

「沖田君」

斎藤は沖田に向かっても首を僅かに振って見せた。
遠くから意識せずに見れば何も分からない程小さな動きだった。

「んん・・・?」

沖田はよく分からないが、ひとまず聞くのをやめて二人と同じように食事を進めた。
何か隠しているなと、内心わくわくしていた。

先に座敷を立った斎藤を追いかける為、夢主も急いで食べ終える。
面白そうだと様子を窺っていた沖田も、こっそりその後に続いた。

「斎藤さん、」

夢主は部屋の障子を開けるなり呼び掛けた。
斎藤は名を呼ばれて夢主を見やるが、その後に続いて現れた見慣れた子憎たらしい顔に眉をひそめた。

「ぇっ」

気配を消していた沖田に気付かず、夢主は自分が睨まれたのかと勘違いし、驚いて身を縮めた。

「あははっ、駄目ですよ〜斎藤さん!そんな怖い顔するから夢主ちゃんが怖がってるじゃないですか」

「君のせいだろう、沖田君」

「へっ?!」

突然の二人のやり取りで初めて沖田の存在を知った夢主は、斎藤と沖田の顔を交互に確認した。
 
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