斎藤一京都夢物語 妾奉公

□50.褒賞
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翌七日、池田屋での功績を称え、会津藩から新選組へ五百両の褒賞金が下された。
後に幕府・朝廷からも莫大な褒賞金が下される。

夢主の世で一両はおおよそ五万円。
池田屋の騒動の余韻で未だ気が立っている男達。そんな状態で纏まった金が手元に入り、慣れぬ隊士達はそわそわと落ち着かず、屯所内がざわついていた。
興奮してはしゃぎ、異様な雰囲気が漂っている。
手にした金子を一気に使い果たさんばかりの騒ぎぶりだ。

部屋で控える夢主には全く関係ない褒賞金騒ぎ。他人事に感じ、嬉しいどころか屯所内の空気に怯えていた。

騒がしい中、不貞浪士の探索は引き続き行われていた。
夕刻、探索から戻った斎藤の顔を見ると、皆につられているのか様子がいつもと違った。

斎藤は入り口で一旦立ち止まって目を細めて夢主を見下ろし、改めて観察するように小さな体を隈なく見回してから視線を合わせた。
この日の斎藤の目には、今までに無いものが宿っており、捉われるとゾクリと背筋に何かが走った。感じた事のない怖さを覚える。

夢主の心情に気付いたのか否か、斎藤は出かける際に手を伸ばす場所へ無言で近付いた。
不要の品を置き、代わりに何かを懐に入れている。

「み、みなさん、島原にでも行かれるのですか・・・」

「まぁ、そうだろうな」

意識せずとも悲しい目で斎藤の所作を余さず見てしまう。
斎藤も仕度を整えて花街や色町へ出向いてしまうのだろうか・・・。

引き留める視線に気付いた斎藤は、ふと手を止めて夢主の前にすぅっと移動した。
目の前で片膝をつく斎藤に夢主は驚いた。

「夢主」

斎藤は夢主の髪の隙間に指を差し込むように手を伸ばし、物言いたげな顔に触れた。
思わずびくりとして、伸びた手から逃れる。
鋭い瞳は優しさを残しているが、外で騒ぐ男達と同じ、ぎらつきを抱えていた。

斎藤は宙に取り残された手を再び夢主に寄せると囁いた。

「・・・俺と戯れてみるか・・・」

「ぇっ・・・たゎ・・・」

戯れるとは・・・ひとつの行為しか思い浮かばない夢主は思考を停止し、突然の一言に驚き、大きく開いた目は長い睫を震わせた。
震える瞳で斎藤を見つめ返す。

「戯れ・・・って・・・さ、斎藤さん・・・なんだか・・・おかしいです・・・」

いつもの眼差しと違い、瞳の奥で何かが滾っている。

「フッ、冗談だ」

斎藤は目を伏せるように冷笑し立ち上がった。
夢主を見下して更に続ける。

「すまんな、冗談だよ。今夜の巡察は無いが俺も皆に付き合ってちょっと出てくるから、先に寝ていろ。いいな」

「は・・・はぃ・・・」

小さな声で言うと、斎藤は素早く仕度を済ませて出て行ってしまった。

先に寝ていろと言った。今夜は戻るのだろうか。
付き合うと言っていたが、斎藤も同じ事をするのだろうか。

夢主はひとり取り残された部屋で、外の喧騒とは対照的に沈んだ気持ちになっていった。

斎藤の鋭い瞳に捕われて感じた感覚だけが、体に残っていた。
 
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