斎藤一京都夢物語 妾奉公

□52.仕置きと罰
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蒼紫の歩みはとても速く、夢主は時折小走りで追いかけねばならなかった。
蒼紫は顔を隠すように首に白い布を巻いている。口元はすっかり隠れ、一言も発さない。
無言の道中は気まずいが、下手な発言をしては警戒心を煽ってしまう。夢主も黙って大人しく歩いた。

「いたぞ」

「えっ」

急に立ち止まった蒼紫。夢主は慌てて立ち止まった。
勢い付いていた夢主の鼻先を蒼紫の後ろ髪が揺れる。
背中にぶつかりそうになった気配を感じたはずだが、蒼紫は前を見つめて動かない。
視線の先には、辺りを見回しながらやって来る土方がいた。

「夢主っ!!」

土方は夢主に気付くと駆け寄った。そして蒼紫が敵か否か確かめるように一瞥してから、夢主を睨みつけた。

「夢主てめぇっ、男に会う為に抜け出したのかよっ!!」

「ち、違ぃ・・・」

「迷惑な勘違いだな、壬生狼」

怒る土方と慌てる夢主の遣り取りを蒼紫が遮った。
夢主に詰め寄っていた土方がゆっくりと顔を上げる。気に食わねぇなと鋭い目を向けた。

「猫を飼うならばしっかりと躾けておく事だ・・・」

「なんだとてめぇ」

目の色も変えず、首元の布に顔半分を隠したまま静かに言い捨てた蒼紫に、土方は喧嘩腰な態度を見せた。
それ以上言えばただじゃおかねぇと、今にも胸倉を掴みそうな勢いだ。
蒼紫は瞬きもせずに真っ直ぐ土方を見据えた。どこか似た顔立ちの二人が睨み合っている。

「新選組副長、土方歳三・・・随分と好戦的だな」

「何っ」

「ま、待って下さい土方さんっ、本当に誤解ですっ」

名を呼ばれ怒りを露わにした土方を宥め、一方で蒼紫に敵対する気はないと告げて礼を言おうと振り返った。
そこに蒼紫の姿は無かった。

「っ、あの野郎・・・一体何者だ・・・」

流石の土方もぽかんと口を開けて、蒼紫が立っていた場所を眺めた。
男から目を離したのはほんの一瞬、夢主の顔を見た一瞬に奴は消えた。

後を追うことも不可能と察した土方は、気を取り直して怖ろしい目つきで夢主を見下ろした。

「ひっ・・・」

久しぶりに見る怒気を含んだ怖ろしい鬼の形相に、夢主は腰を抜かしそうになった。

「ったくよぉ・・・」

怒鳴りつけてやりたいのに腰を抜かすなよと土方は溜息を吐き、夢主のよろめいた体を支えた。

「それで?」

「はっ・・・はいっ・・・」

夢主はおどおどと目を泳がせている。

「だから、てめぇはぁ、何で!屯所を抜け出した!!」

「そっ・・・それは・・・」

ゆっくりとだが、気迫ある言葉で問われた夢主は顔を紅潮させ、声は小さくなっていった。

「さっ・・・」

目の前の土方にも届かない小さな声で、夢主は飛び出した理由を告げた。

「ん?何だ、聞こえねぇよ、怒らねぇから言え」

俄かに顔を寄せた土方は、夢主を覗き込むように諭した。

「斎藤さんの・・・ぉ、お相手の女の方を・・・太夫さんを・・・見てみたかったんです・・・」

涙目で呟く夢主、土方はその理由に驚いて頭を抱えた。またも口がぽかんと開いている。

「お前・・・」

夢主は俯いてモジモジと自分の手を弄っている。
とても土方の顔を見られなかった。
 
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