斎藤一京都夢物語 妾奉公

□53.切ない三人夜
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夢主の脱走から始まった慌しい時が過ぎ、ようやく落ち着きが戻ってきた。
夜は深く、屯所内は静まり返っている。
三人は互いの考えを探るように顔色を覗き合っていた。

「さて、何から聞くべきか」

小さくなって座る夢主の姿からは、反省と謝罪の気持ちが溢れている。
何から話せば良いか分からず、斎藤の一言に顔を上げた。心配させ、余計な手間を掛けさせてしまった。

「あの・・・お騒がせして、すみませんでした・・・」

「それはもういい。土方さんもお前が謝るなと言っただろう。正直、解せないが怒ってはいない」

「はぃ・・・」

「うーんと・・・夢主ちゃんは、淋しかったのかな」

「えぇっ、そっ・・・そんなっ」

最初の質問で早速夢主は顔を赤く染めて、おろおろと言葉に詰まった。
本音を語る勇気が出ない。あやふやに言葉を濁したいが、真摯な二人には正直に向き合わなければならない。

「そぅ・・・そうかも・・・その通りかもしれないです・・・」

返事を待つ穏やかな沖田を見て、夢主は冷静さを取り戻し、素直に自分の気持ちを認めた。

「淋しくて・・・やきもちを・・・とっても下らないんです。私のただの、やきもちです。太夫さんが・・・羨ましかったんです・・・」

斎藤も沖田も素直に語られる想いに驚いて耳を傾けた。
沖田は自分を責める夢主を悲しげに見つめている。

「夢主ちゃん・・・」

「斎藤さん、ずっと帰ってこないから・・・淋しかったんです。いつも一緒にいたのに、・・・だから、ただの私の我が儘です・・・」

「夢主・・・」

良かれと距離を取ったことで、夢主がそれほど淋しい時間を過ごしているとは、斎藤は考えもしなかった。
申し訳なさと共に、求められる感覚に無意識の喜びも感じていた。

「太、太夫さん・・・とってもお綺麗な方で・・・素敵な方ですね」

にこりと優しく微笑む夢主に、斎藤の胸がちくりと痛む。
太夫はそんな存在ではないと告げねば、そんな思いに駆られた。

「相生太夫は」

「私、土方さんに怒られちゃいました、ふふっ」

夢主は斎藤の言葉を遮って話を続けた。沖田が続きを聞きたそうに相槌を打つ。

「土方さんに?」

「はぃ、比べて落ち込んでいる私の事を叱ってくれました。土方さん、今回は本当に色々ご迷惑お掛けしちゃいました・・・連れて行ってくださるとは思わなかったです・・・」

「そうか。早く話してやれば良かったな、すまない。気を揉んだな」

夢主は微笑んで首を振った。

「もういいんです」

「早まるな、お前は誤解をしている」

今ならどんな話でも受け入れられる。
夢主は落ち着いた顔で斎藤を見上げた。
 
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