斎藤一京都夢物語 妾奉公
□53.切ない三人夜
1ページ/6ページ
夢主の脱走から始まった慌しい時が過ぎ、ようやく落ち着きが戻ってきた。
夜は深く、屯所内は静まり返っている。
三人は互いの考えを探るように顔色を覗き合っていた。
「さて、何から聞くべきか」
小さくなって座る夢主の姿からは、反省と謝罪の気持ちが溢れている。
何から話せば良いか分からず、斎藤の一言に顔を上げた。心配させ、余計な手間を掛けさせてしまった。
「あの・・・お騒がせして、すみませんでした・・・」
「それはもういい。土方さんもお前が謝るなと言っただろう。正直、解せないが怒ってはいない」
「はぃ・・・」
「うーんと・・・夢主ちゃんは、淋しかったのかな」
「えぇっ、そっ・・・そんなっ」
最初の質問で早速夢主は顔を赤く染めて、おろおろと言葉に詰まった。
本音を語る勇気が出ない。あやふやに言葉を濁したいが、真摯な二人には正直に向き合わなければならない。
「そぅ・・・そうかも・・・その通りかもしれないです・・・」
返事を待つ穏やかな沖田を見て、夢主は冷静さを取り戻し、素直に自分の気持ちを認めた。
「淋しくて・・・やきもちを・・・とっても下らないんです。私のただの、やきもちです。太夫さんが・・・羨ましかったんです・・・」
斎藤も沖田も素直に語られる想いに驚いて耳を傾けた。
沖田は自分を責める夢主を悲しげに見つめている。
「夢主ちゃん・・・」
「斎藤さん、ずっと帰ってこないから・・・淋しかったんです。いつも一緒にいたのに、・・・だから、ただの私の我が儘です・・・」
「夢主・・・」
良かれと距離を取ったことで、夢主がそれほど淋しい時間を過ごしているとは、斎藤は考えもしなかった。
申し訳なさと共に、求められる感覚に無意識の喜びも感じていた。
「太、太夫さん・・・とってもお綺麗な方で・・・素敵な方ですね」
にこりと優しく微笑む夢主に、斎藤の胸がちくりと痛む。
太夫はそんな存在ではないと告げねば、そんな思いに駆られた。
「相生太夫は」
「私、土方さんに怒られちゃいました、ふふっ」
夢主は斎藤の言葉を遮って話を続けた。沖田が続きを聞きたそうに相槌を打つ。
「土方さんに?」
「はぃ、比べて落ち込んでいる私の事を叱ってくれました。土方さん、今回は本当に色々ご迷惑お掛けしちゃいました・・・連れて行ってくださるとは思わなかったです・・・」
「そうか。早く話してやれば良かったな、すまない。気を揉んだな」
夢主は微笑んで首を振った。
「もういいんです」
「早まるな、お前は誤解をしている」
今ならどんな話でも受け入れられる。
夢主は落ち着いた顔で斎藤を見上げた。