斎藤一京都夢物語 妾奉公

□55.守り人
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食事を済ませた三人は再び部屋でのんびり時を過ごした。
土方を探すが所用で出ており、仕方なく言いつけ通り部屋に戻って待機している。

熱い空気に包まれていると、体だけではなく気分までだるくなる。
転がりたい眠気に誘われていた。

「暑いですねぇ・・・」

「あっ、扇いであげましょうか」

夢主は思い出して斎藤から貰った扇子を取り出した。
沖田は初めて見る、色が無く重みのある扇子に違和感を覚えた。

「おぉこれは・・・男物ですよね」

「はぃ、斎藤さんに頂いたんです」

嬉しそうに手にした鉄扇を広げて夢主は沖田を軽く扇ぎ、顔はにこりと微笑んで斎藤を見ていた。

「フン、夢主にせがむんじゃないよ沖田君」

「嫌な言い方をしますね、斎藤さん。ねぇ夢主ちゃん、今度可愛らしい扇子を探しに行きましょうよ!お似合いの物がきっと見つかりますよ」

女に扇がせるとはみっともないと渋い顔をする斎藤に、沖田は悪態を返した。
すぐに夢主に目線を移して、にこやかに誘う。
どんなものが似合うか、愛らしい作りの扇子を幾つも思い浮かべて返事を待っている。

「ありがとうございます。でもこの鉄扇、気に入っちゃいましたから、ふふっ」

「そうですかぁ・・・」

申し出を笑顔で断られ、沖田は渋々引き下がった。
満足しているなら自我で押し付けてはいけない。

「それも悪くありませんが・・・きっと似合うのになぁ」

「暑さを凌ぐなら・・・水でしょうか、沖田さんっ!」

扇子に拘って長引きそうな沖田の頭からこの話題を消そうと、夢主は他の涼を取る方法を考えた。

「水遊び?いいですねぇ」

「沖田さん、お庭に立っていただけたら私、頭からお水掛けちゃいますよっ」

「ははっ、流石にそれは困るなぁ〜夢主ちゃんにもやり返しちゃいますよっ」

楽しそうにはしゃぐ二人を斎藤は片眉を上げて見ている。

「謹慎中に水遊びではしゃぐ阿呆がいるか。見つかったら大目玉だぞ」

「ですよねぇ・・・それに・・・」

水をかぶったら・・・と沖田は夢主に目を向けた。
いつかの雨の中の濡れ姿を思い出していた。
大坂から行軍して戻ったあの日、濡れて張り付いた布が体の線を表して・・・
沖田は思わず頬を染めて夢主から目を逸らした。

・・・余計なことを思い出してしまったな・・・

「フフン、水は止めたほうが良さそうだな。一興だが」

斎藤も同じ出来事を思い出したのか、気まずそうな沖田に助け舟を出した。
だが揶揄われたと感じた沖田は、ニヤリ口角を上げる斎藤に睨みを利かせ、口を閉じてしまった。
また暑くて退屈な時間が始まった。

斎藤は文机に移動して一旦何かの書物に目を通し始めたが、すぐに中断すると楽な姿勢で寛いだ。
夢主は縫い物でもしようと道具に手を伸ばしたが、斎藤に止められた。

「今日くらいは止めておけ。何もせずに過ごす日があってもいだろう」

「はぃ・・・そうですね、ふふっ」

確かに一緒に過ごせるのだから、何もせずただ時を共に過ごすのも悪くない。
手を止めた夢主に、斎藤はそれでいいと頷いた。
 
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