斎藤一京都夢物語 妾奉公

□56.紫の蝶、蒼く(しのちょう、あおく)
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謹慎が解ける朝だが斎藤も沖田も朝稽古には出ず、三人揃ってのんびり目を覚ました。
朝餉の膳を部屋に届けた家の者の声で目覚めたのだ。

「土方はんが起こさんでえぇ言いますからお膳はお持ちしましたけども、もう起きなはれ。怒ぅておへんけども、怖い顔!してはりましたぇ」

そう言うと家の者は土方の怖い顔を再現して「な、これやわ」と言い、怖々と首を振って去っていった。

「あははっ、これ以上のんびりしていたら本気で雷を落としに来そうですねぇ!早く食べて片付けちゃいましょう」

「フン、仕方あるまい」

三人とも寝巻を調えて布団を片付け、そのまま朝の食事にした。
斎藤と沖田はいつもの如く、あっという間に済ませてしまった。

「あっ、お膳は私がまとめて片付けますから・・・」

箸を取って直ぐに食べ終えた二人に対し、夢主はもう少し時間が掛かりそうだった。

「いやぁ、朝から悪いですよ」

身の回りの事に関していつも世話になってばかりだと、沖田が膳を手に掛けようとした。

「土方さんの所に行かなくてよろしいのですか。私も行かないといけないと思いますけど・・・」

謹慎明けの一喝がきっとある。
夢主が気にすると、斎藤と沖田が確かにそうだと顔を見合わせた。

「行きたくないけど仕方ありませんね〜」

「着替えたら向かう。夢主、片付けを頼む」

「はい」

「ではまた後ほどっ!」

それならばと沖田も夢主に任せ、着替えに向かった。

夢主は二人の膳を寄せ、自分の食べかけの膳の横に座ったまま、斎藤の着替えが済むのを体を背けて待った。
しゅるしゅると音を立てて、斎藤は着替えもあっという間に終えた。食事も着替えも全てが素早い。

「片付けが終わったらお前も挨拶に行けよ」

「はぃ」

うむ、と頷くと斎藤は部屋をあとにした。

夢主はひとり残った部屋で、もう一度もそもそと箸を動かし始めた。残りを食べ終える前に斎藤と沖田は土方の部屋に辿り着き、話が始まった。

「土方さん、失礼します。斎藤です」

「僕もいま〜す」

緊張感の無い沖田を一瞥する斎藤、へへっと沖田が笑みを作ると同時に土方の声が返ってきた。

「入れ」

渋い表情の斎藤と、にこやかな沖田が土方の前に座った。
土方は家の者が言った通り、怒ってはいないが目を細めた厳しい顔付きになっている。

「たった一日で随分のんびり出来たようだな。告げた通り謹慎は一日で終いだ。明日からは朝稽古にもちゃんと出ろよ」

「心得ております。今回は色々と土方さんの手を煩わせてしまいました。面目次第もございません」

斎藤はしかめっ面を元に戻して素直に謝罪の言葉を伝えた。

「ふん、斎藤が素直に謝るたぁ珍しいな。まぁいい。面倒は起こすんじゃねぇぞ。夢主にもしっかり言っておけよ」

「はい」

「それから総司から聞いてるかも知れねぇが、昨日の件は片は付いてるぜ。そっちも安心しろって・・・お前のことだ、晩の騒ぎで気付いてるか」

「はい。夢主には詳しく伝えないつもりですが、心配ないと伝えます」

「夢主ちゃんを脅かす輩は、僕が許しませんから・・・」

「頼もしいな、任せたぜ」

キッと強い視線が沖田と土方の間でぶつかった。
再度確認するよう睨む沖田だが、土方はそんな気はねぇよと手を振り、目の力を弱めて沖田から逸らした。
話も終わりかと思った三人、そこへ急ぎやって来る足音が響いた。緊張感ある速い足音が部屋の前で止まる。
 
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