斎藤一京都夢物語 妾奉公

□57.花の主
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会津の要請に従い新選組が屯所を出てから数日後。
帰屯を果たした皆を夢主は門で出迎え、見知った顔にそれぞれ短く挨拶をした。
大きな怪我人もなく、心から安堵した。
待ち受ける夢主を見つけた斎藤はその瞬間、張り詰めていた何かが解れる気がした。無事な姿に愁眉を開く。

「大丈夫か、変わりは無いか」

「はいっ、大丈夫でしたっ。斎藤さん、お疲れさまでした」

にこりと微笑む夢主に斎藤は違和感を覚えた。
異様なまでに落ち着いている。
いつもは帰りを待っていましたと顔に出すが、不思議なほど落ち着いて、淋しさを訴える様子が全く無い。
隣にやって来た土方も何らやおかしいと勘付き、斎藤に目配せをした。

「まぁ平穏無事で何よりだ、俺は帰陣の後始末があるから先に行くぜ」

夢主にニッと決め顔を見せて土方は去っていった。
去り際、斎藤の肩をぽんと叩いたのは労う為ではない。理由を聞き出せよ、そう目で会話をした。

「汚れを落として部屋に戻る。お前は先に戻っていろ」

「はぃ」

慌ただしく行ったり来たりする隊士達の邪魔にならぬよう、夢主は大人しく斎藤の部屋に下がろうと歩き出した。

「夢主ちゃん!お尻、痛かったですかっ?」

いきなり出陣姿の沖田が現れた。
人懐っこい顔に似合わぬ含み笑いをしている。

「えっ、沖田さん、おかえりなさぃ・・・あの、何のことですかっ」

「忘れちゃったんですか、僕達が出陣した初日の夜ですよ」

「あぁっ!」

途端に頬を紅潮させ、夢主は怒りながら恥じらって沖田の顔を見た。

「何で知ってるんですかっ」

「あははっ、そりゃぁ監察方の山崎さんにしっかり教えていただきましたから、夢主ちゃんの様子」

「そんなことまでっ」

蒼紫に見守られていると思っていたが、一方で山崎ら監察方にも度々姿を確認されたのを思い出した。
何から何まで、見たもの全てを報告されたのか。恥ずかしくて消えてしまいたい気分だ。

・・・でも蒼紫様に気付いてないのかな、お互い気付いてない・・・そんなこと、無いと思うけど・・・

隠密に長けた蒼紫はこちら側の忍んだ動きには気付いたはずだ。
それを承知で自分を見守りに、いや観察に来ていた。

「ふふふっ、監察方の皆さんを甘く見ちゃいけませんよっ、いい仕事してくれるんですからねっ」

夢主が蒼紫のことを考える表情を、監察方の仕事ぶりに驚く顔だと誤解した沖田は、嬉しそうに仲間を褒めた。

「あはっ・・・そぅですね・・・」

夢主が苦笑いで応じると、沖田は満面の微笑みを返した。

「僕もさっぱりしたらお布団持ってお邪魔しますねー!夜はずっと斎藤さんの部屋って決めましたから!」

「あ・・・」

あの約束を覚えていたのか、本気だったのかと、夢主は大きな瞬きを繰り返した。

「ははっ、本気に決まっているでしょう、そんなに驚かないで下さいよっ!」

大きな声に驚いたのは周りで、「斎藤先生の部屋に沖田先生が・・・」と、ひそひそ囁き声が聞こえた。

「おぅ、総司、夢主を襲うんじゃねぇぞ」

「衆道も流行ってるからなぁ〜そっちかぁ」

「馬鹿言わないで下さいよ!原田さんも永倉さんもっ!僕は夢主ちゃん一筋ですしっ、皆と一緒にしないで下さい!」

揶揄いに来た原田と永倉に言い返すと、沖田は「全くもう!」と怒って去っていった。

「あはっ・・・沖田さん怒っちゃいましたよぉ・・・」

「まぁ気にすんな、あいつはすぐいつもの総司に戻るぜっ」

「そういうことっ」

ニッと爽やかな笑顔を見せて二人も体を清める為、奥へ入って行った。
 
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