斎藤一京都夢物語 妾奉公

□59.物は試し
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「ははっ、そんな目で見ないでくださいよっ、変な顔になっちゃってるよっ」

「あっ・・・」

夢主が気まずそうに俯くと、沖田は不貞腐れもせず「ふふっ」と笑い、頭の後ろで組んだ手を下ろした。
代わりに斎藤と同じように腕組みをして、ぼんやり遠く見るように、周平達に目をやった。

「気にしてくれるのはありがたいですけどね。姉がいつか僕に沖田家の家督を譲るとうるさかったみたいで・・・きっと近藤さんも頭の隅にあったんですよ、代わりの誰かを養子に迎えなければと。僕は家督とか、もうそんな気持ちありませんけどね。だって義兄さんがいますものっ、ははっ」

「沖田さん・・・」

呟いた夢主に沖田は視線を移し、にこりと確かな笑顔を見せた。
瞳の色だけが僅かに淋しさを含んでいる。

「僕は良かったなって思っていますよ。土方さんも言ってくれたんです。これで僕は自分の生き方を、自分で選べるとね」

夢主は目を見開いた。
用意されていた天然理心流の次の代。それは、ありがたくもあり、全てを束縛する存在。
候補から外れた沖田は、生き方、住む場所、そして嫁取り、全てから開放され自由になったのだ。

だから沖田は淋しそうでもあり、嬉しそうでもある、複雑な笑顔を見せた。
死ぬまで大好きな近藤の傍にいられる・・・それは叶わなくなったが、代わりの生き方が手に入る。

「そうなんですね、沖田さん。生き方を・・・良かったですねっ」

俯くように考えてようやく納得した夢主は、顔を上げて目を合わせた。
生き方を自ら決められる。きっと幸せな生き方だ。

「えぇ!僕は幸せ者ですっ、ははっ」

「フン・・・」

何かを吹っ切るように笑う沖田に、斎藤も短く笑った。

「己の望むがままに。大層な人生じゃないか」

斎藤は自由に振舞って生きてきた自負がある。沖田の身の開放を素直に祝福した。
にやりと歪ませた笑顔で祝う斎藤に、沖田もニッと口角を上げて見せた。

「そういうことです」

男達が向けあうニヤリと歪んだ笑み。
穏やかに微笑んでいた夢主はきょとんとして、洗濯物を運び込んだ。
斎藤は気分良さげに、周平達をもう一度確認して、放って置けとばかりに沖田に向かい小さく首を振った。

夢主の後を追って斎藤と沖田も部屋へ戻り、庭を眺めるふりをしては、洗濯物を畳む姿をちらりと盗み見た。

洗濯に関して、斎藤は褌だけは隊士にも家の者にも任せず自ら処理していた。
こだわりがあり、真っ白に皺無く整えなければ気に入らない。
夢主も美しく仕上げる自信が無いうえに、下着に触れるのは抵抗があり、任されず安心していた。

褌さえ無いと分かっていれば躊躇う理由は無い。
たまに洗濯物を預かっては畳むのを手伝った。

最近は沖田の物もまとめて渡されることが多い。
誰の物か迷うと洗濯物を広げては、これは大きいから斎藤、少し小さいから沖田、これは自分、くすっとしながら分けていった。 
 
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