斎藤一京都夢物語 妾奉公

□62.十三夜
1ページ/6ページ


九月十三日、十三夜の名月。
満月ではないけれど、それ故の風情がある。
この名月を夢主に教えた斎藤は、沖田と共に酒の支度を済ませ、夜に備えていた。

手回しの上手い斎藤は抜かりなく事前策を打ち、時間を確保。ついでに沖田の時間も確保したことに気付いたのは土方くらいだ。
加えて月見明けの翌日の非番獲得。何から何まで思い通り。

昼間の巡察を終え、隊士達へ稽古もしっかりつけた。
夕餉も取り、すべきことは全て終えた。
普段から愛飲する酒と共に夢主の為に弱い酒も買い込んだ。
あとは自室へ戻った沖田がやってくるのを待つだけだ。

「月の高さにより色も変わって見えるだろう。白い月が青白く、一晩かけて変わりゆく姿を味わえる」

「はい。斎藤さん、本当に風流お好きなんですねっ、ふふ・・・」

既に斎藤と夢主の二人は座り込んで外を眺めていた。
日はもう暮れている。晴れた夜空にはしっかり月が見えていた。

「沖田さん遅いですね・・・」

「あぁ」

部屋には酒瓶と徳利と、斎藤にしては珍しく猪口ではなく盃を用意していた。
一晩中呑むつもりで、小さな猪口で何度も酌をするよりはと揃えたのだ。

「遅くなってすみません!」

「沖田さんっ」

「遅いぞ」

慌しくやってきた沖田は手に盆を持っていた。
上には徳利と猪口がふたつ乗っている。

「どうしたんですか、沖田さん。準備ならもう・・・」

「あぁ、こちらは後で、ちょっと・・・」

すいっと沖田は自分の後ろに盆を置いて座った。

「後で呑むんですか」

不思議そうに夢主が訊ねると、沖田は斎藤に確認を取るように目を動かした。
斎藤はなんの合図だと眉を動かす。

「えぇ、実は・・・名月でしょう?お話をしたら是非にと申しまして」

「どなたが・・・」

沖田が丁寧に語る相手とは誰だろうと夢主は首を捻った。近藤は屯所を開けており、土方は毎夜部屋に明かりを灯して忙しそうにしている。

「山南さんです」

「山南さんっ・・・お元気になられたんですか」

沖田の答えに夢主は驚いた。
酒が呑めるほど回復しているとは朗報だ。

「えぇ、山南さんは元気です。その・・・どちらかと言うと・・・」

言葉に詰まる沖田を、夢主は心配そうに覗きこんだ。
斎藤は言葉の続きを察していた。

「気の病なんです。夢主ちゃんに隠しても仕方が無いからお話しますが、みんなには内密に願いますね」

「はい・・・勿論です・・・」

山南の様子が気になると同時に感じる、沖田が山南を慕う優しさ。
夢主には憂いが芽生えた。大切な人の身に起こる悲劇を、沖田はまだ知らない。
 
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ