斎藤一京都夢物語 妾奉公

□64.雪の帰り道
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何件か酒屋を回り、最後に以前比古清十郎と出くわした酒屋へやって来た。
斎藤は一人酒屋へ入ると主人から話を聞いた。

沖田が暖簾を捲って覗くが、新しい知らせは何も無く、ただ首を横に振る主人の姿が見えるばかりだ。

「今日も駄目でしたね・・・」

ぼそりと呟く夢主、沖田も仕方がないねと苦笑いを浮かべた。
斎藤が店主との会話を終える姿が見える。

その時、店の横の狭い道を飛び出してきた少年がいた。
勢いが凄まじく、少年が店の前で斎藤を待つ二人に気付いた時には、どうすることも出来なかた。
全力で走り抜け、避けきれずにぶつかった。

「きゃぁあっ」

子供相手とはいえ全力疾走の勢い。夢主は突き飛ばされてしまった。
店先で転がる夢主に、店を覗いていた沖田が慌てて手を貸した。

「大丈夫ですか、・・・君っ!!」

夢主の肩に手を回して体を起こしてやると、沖田は顔を上げて子供相手だろうが構わず、怒気をはらんだ鋭い視線を叩きつけた。

「危ないじゃないか!!体が小さかろうが君は男だろう!女の人とは体のつくりが違うんだ、気が付かなかったではすみません!相手が悪ければ君は斬り捨てられていたかもしれないんだよ!!」

「・・・」

少年は十を過ぎた頃の背丈に、黒い髪を逆立たせ、気の強そうな顔つきをしている。
子供ながら、目の鋭さは斎藤に劣らないほど何かを強く見据えている。
ただ異なるのは、瞳に宿した熱が自らの正義によるものではなく、何かを憎み嫌悪する感情から来ていることだった。

「聞いているのかい」

沖田と夢主が共に立ち上がると、少年はキッと歯を食いしばって睨み付けてきた。

「黙れ、お前等なんかに何がわかる!!幸せそうなお前等に!!」

そう叫ぶと再び猛烈な勢いで走り去って行った。

「あの・・・子・・・」

「大丈夫ですか、夢主ちゃん」

夢主は力なく口を開いた。
怒鳴った少年の姿に心当たりがあった。

「まさか・・・」

「どうした、大丈夫か」

外は沖田に任せ、話を聞いていた斎藤が店から出てきて、すでに消えそうな少年の背中を見た。
 
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