斎藤一京都夢物語 妾奉公

□65.伊東の値踏み
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土方らが伊東を知ろうと画策しているのと同様、伊東も近藤、土方の周辺を知ろうと動いていた。

江戸で知られた北辰一刀流の使い手である伊東だが、道場でその腕前を披露することは無かった。
しかし道場を訪れては隊士達の剣技と共に、太刀筋から人物そのものの資質を見極めようと目を光らせた。伊東は洞察力を備えていた。

・・・あの人は美しい・・・あぁ、がさつだわ・・・

目を細めたり見開いたり、言葉を発さずとも一人ひとりの稽古を実にしげしげと眺めている。

やがて剣術指南役の斎藤が木刀を手に立ち上がり、道場の中ほどに進み出た。
平隊士達に順に稽古をつけて行く。

まずは一方的に打ち込ませて、向かってくる木刀を何手かかわす。
数手見切ったところで一言助言を与え、更に打ち込ませると今度は自らの木刀で隊士の太刀を幾度か受け止める。
最後に斎藤から一振りを与え、一本奪う。
斎藤のたった一撃で相手の隊士は木刀を落としたり、体を床に転がしたりするのだ。

・・・見事だわ・・・

「頭上がガラ空きだ」

「どっ・・・」

容赦なく脳天に振り降ろされる木刀を必死に受けるが、後ろに吹き飛ぶ隊士。

「出来ている。だが、こちらが」

「うぉっ!!」

腕に自信がある隊士、綺麗な構えで斎藤に向き合っていた。
しかし打ち込むと見せかけ繰り出された足払いを受け、自慢の剣を披露する前に床にすっ転んだ。

「剣を構えてそこばかり見ていると、まさに足元をすくわれるぞ。今の京の戦いはそういう戦いだ」

・・・美しい・・・姿形も美しいけれどあの斎藤という男の剣・・・美しいわ・・・

伊東は悦ばしげに目口を細め、次々と隊士をあしらう斎藤を眺めていた。

・・・それに比べてあの子・・・

伊東は視線で沖田を捕らえるが、すぐに視線が返って来たので視線を外して斎藤へ戻した。

・・・嫌ね、あぁいう子は面倒だわ。やけに鋭いうえに扱いにくい、剣は一流でも優美さが足りないのよ・・・

沖田の一人稽古を目にすれば伊東は口を開けて驚いただろう。
流れるような艶やかな舞いのような型稽古。
まさに雅やかで優美そのものだ。伊東は虜になっていただろう。

だが道場内での荒々しい隊士への稽古付けしか目にしなかった伊東は、沖田の剣の美しさと恐ろしさを甘く見ていた。

そして沖田は沖田で、今まさに斎藤に熱い視線を送る伊東を快く思っていなかった。
伊東は沖田の目の前だろうが気にせず山南に怪しいほど近寄り、土方をあからさまに目の敵にしている。今度は斎藤か。

「気に入らないなぁ〜」

沖田は素直に呟いた。
伊東は自分と目が合った瞬間、不満げに目を逸らした。
お気に召しませんでしたか、悪いですねぇ、と暫く冷たい笑顔を向けたが無視された。

これで夢主に手でも出そうものならいつ沖田が動いてもおかしくは無い。
 
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