斎藤一京都夢物語 妾奉公

□67.折り合い
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夜も更け、呑みふける伊東を尻目に、斎藤は角屋を抜け出した。

「後は頼んだ、気付いたら説明してやってくれ」

妓達に伝言を残していた。
辺りは既に真っ暗だ。冷たい夜気に思わず体を縮めたくなる。
角屋で借りた提灯を手に、斎藤は屯所へと急いだ。

屯所へ無事戻ると自室ではなく、真っ直ぐ土方の部屋へ向かう。

「斎藤です」

名乗ると音も無く部屋へ姿を消した。
夜の屯所、いくつか明かりが灯っているが、静まり返っている。

「どうだった斎藤」

「まぁ思っている通りでしょうね、土方さん」

向かい合って座り、報告を始めた。

「あの人は既に隊士達の値踏みを済ませている。幸か不幸か俺は随分と気に入られたようです」

フッと自嘲気味に鼻をならして目を逸らすと、今日一日の会話や行動を思い返した。

「そうか。そいつは都合がいいがな、お前があいつになびかなけりゃぁな」

「そいつは心配無用です。あの男はいけ好かない。否、ある種気に入ったが・・・常に殺気を抱えた、ふざけた男ですよ。そいつを隠したり漏らしたり、相手を弄んでいやがる」

不安がっていた夢主は、きっとそのように弄ばれ、伊東に恐れを抱いたのだろう。

「そうか」

土方は胡坐を掻いて顎をいじりながら、伊東の胸の内を掴もうと思考を巡らせた。
斎藤は伊東に関して感じたこと、気付いた点を事細かに報告した。

思った以上に女好きである。酒好きである。歌を詠む。勉強熱心で質問好きである。剣技はあると見えるが、体力は我々より劣る。
伊東の仕草や癖まで伝えた。

「ご苦労だったな斎藤。お前は本当にありがたい男だ」

「俺も同じですよ」

策略を練るなら喜んで手伝うと、斎藤は顔を歪めて土方に目で語りかけた。

「フッ、お互い命がけだぜ」

「喜んで」

ありがたい限りだと二人は視線を合わせるが、ふと夢主の姿が脳裏に浮かんだ。

「あの男、夢主に興味を持っていますね」

「そうみてぇだな・・・あれこれ知っているとは、藤堂の野郎ぉ話しやがったな」

「そう考えるべきでしょうね。彼から連絡は」

「あった。だが『まだ戻れない』そう言ってきやがった。近藤さん曰く、古い馴染みにも会っているらしく、隊士集めを続けているならいいじゃないか、とよ。近藤さんは甘くていけねぇ・・・っと、これは他言無用だ」

斎藤はもちろんですと真顔で頷いた。

「近藤さんはいろんな人に会ってるからな、人に会う楽しさが、藤堂の気持ちが分かるのかもしれねぇ」

視線をすっと落とすと、土方は一瞬目を伏せた。
藤堂は流派を跨いでいるとはいえ、試衛館から共に京に上った仲間だ。
大事な仲間を信じたい。

「もう暫く待つ」

「そのように」

二人は話し合いの終わりの確認するように、揃って大きく頷いた。

「斎藤、夢主に気を払え」

「承知」

鋭い瞳で返事を済ませると斎藤は立ち上がった。
土方も既に自分の机に向かっている。斎藤は静かに部屋を後にした。
 
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