斎藤一京都夢物語 妾奉公
□68.余儀なき酒席
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太陽が頭上を通り過ぎた頃。
いつもと変わらぬ部屋で夢主達は三人、他愛のないお喋りで束の間の一時を楽しんでいた。
「去年の今頃はお餅ついたり、賑やかで楽しかったですね、夢主ちゃんが照れる姿も可愛かったですし」
「もう沖田さんたら。でも、楽しかったですね」
「もうすぐ年も明けると言うのに、今年は何も無く年が変わる気がします」
「はぃ・・・」
夢主は斎藤の横顔を見つめた。
会話を耳を傾け、黙って庭を眺めている。
んっ・・・と気付き夢主と目が合った。
何か思うところがあったのか、微かに目元を緩めると、そのまま再び庭に視線を戻した。
「斎藤さんも・・・お餅ついてましたね、とっても素敵でした。・・・みなさんのお餅つく姿っ、ふふっ」
もろ肌脱いで杵を振り上げる皆、目のやり場に困った昨年の餅つき。あの時は上気した皆の体に照れて仕方が無かった。
冬の寒気の中、火照った体から上がる蒸気、汗ばんだ肌。
隣に斎藤が立った時、普段とは違う逞しい色気に目眩がしそうだった。
「去年たくさん作って配ったから、今年は頂けるそうで。嬉しいですけど皆でやりたかったですね〜っ」
「はぃ・・・私も楽しかったですっ」
今日はこれから伊東との酒席が設けられている。
斎藤と沖田が巡察に出るまでの一時、夢主の気を紛らわせようと談笑していた。
「そろそろ俺達は行かねばならん」
「今日は巡察を早く切り上げて帰ってきますから!」
「フッ、そうもいかんが、まぁ上手いことやってみるか」
隊務を余所に夢主を思う沖田の発言。
斎藤も失笑しながら同意した。沖田以上に気にしている。
「お願いします、斎藤さん・・・沖田さん」
「あぁ。お前も頑張って来い」
「はいっ」
斎藤の励ましを受けて夢主は姿勢を正した。
二人が出て行くと夢主は意を決して永倉を呼びに向かった。
結局、酒宴の席は伊東に充てられた部屋に決まった。永倉と二人で訪ねるのだ。
「永倉さんはお酒強いですよね」
「あぁ、総司や斎藤と同じくらい呑めるな」
並んで歩く永倉は爽やかに答えた。
夢主の不安な気持ちをしっかり察している。
「もし私が酔ってしまったら・・・お願いします」
「わかってるぜ、斎藤達にも頼まれてるからな、任せろよ」
「はい」
いつかの動揺ばかりしていた永倉が嘘のように、落ち着いた大人の男として接してくれる。その姿を頼りに思い、夢主は快く頷いた。
今は頼もしい存在として横を歩いている。