斎藤一京都夢物語 妾奉公

□70.大津
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鉄と呼ばれた小姓の少年、それは入隊はまだ何年も先だと思っていた市村鉄之助だった。
齢は四乃森蒼紫より一つ下、雪代縁より一つ上。
土方の最後の戦いの場まで共に歩み、彼の望みで死地から離れ、遺影となる写真を届ける大役を引き受ける人物だ。

夢主の記憶では、鉄之助は土方をはじめ、幹部連中からすこぶる可愛がられていた印象があった。
実際、とても可愛がられていた。

伊東の着物を託した翌日、鉄之助が斎藤の部屋を訊ねた。
夢主への届け物だ。

「私に・・・ですか」

「はいっ!」

目の前に差し出された物に、きょとんと首を傾げた。
夢主にも馴染みの丸い盆の上に、見覚えのある包みが乗っていた。
そばで沖田が笑い転げ、斎藤がクックッと声を殺している。

「伊東先生からです。お礼だそうです」

健気に自分の役割を果たそうとする鉄之助。
膝を折る姿はまだ夢主より小さい。

「お礼・・・着物のですか・・・お礼なんていいのに・・・」

正座する膝前に置かれた盆の上の包みに、夢主は困っていた。

「あはははっ、それで、なんでお団子なのっ!!普通もっと可愛いものでしょう、伊東さんの趣味ですかぁっ、あはははっ!しかも凄く大きいですよ!はははっ」

沖田は床を叩いて笑っている。
あの澄ました伊東が夢主に選んだ贈り物が団子という事実が可笑しくて堪らない。
しかも一人で食べるにはどう見ても多すぎる量、大きな包みが置かれていた。

「私・・・そんなに食べるように見えるのかな・・・」

恥ずかしそうに小さな声で言う夢主に、鉄之助も困った顔をした。

「あはは・・・すみません、私のせいなんです」

「あなたの・・・鉄之助君の」

「はぃ・・・」

素直にへへっと笑い、肩をすぼめた。少しも悪びれる様子が無い。
土方もこの少年のこんな気質が好きなのだろう。土方は鉄之助を大層可愛がっていた・・・夢主はそう記憶していた。

「伊東先生に夢主さんのお好きなものを聞かれたので、よく沖田先生とお団子を食べているので大好きなのでしょうとお伝えしたら、鵜呑みにされてしまい・・・まぁ買ってきたのは私なんですけどね、えへへっ」

「あはははっ、だからこんなに沢山あるんですねっ、ふふふっ、僕、鉄之助君が大好きだなぁー!」

相変わらず腹を抱えて笑っている。
沖田にも鉄之助は夢主が伊東を避けたがっていると知ったうえで、わざとこんな団子を買うよう仕向けたのだと分かっていた。
鉄之助の機転が利く賢さを気に入っていた。

「ありがとうございます、だからほら・・・開けてもいいですか」

包みに手を伸ばすと、贈られた夢主に確認を取り包みを開いた。

「沖田先生の好きないつものお団子に、夢主さんの分、それに団子屋のおばちゃんに勧められて斎藤先生に特別お抹茶の餡子無し団子・・・ね、どうですか」

「わぁ、完璧ですね!鉄之助君!君って本当に賢いね」

包みの中を目にすると笑いがおさまった沖田、早速食べたいなぁと目を輝かせて覗いた。

「ふふっ、沖田さんたら」

「ねぇ、頂きましょう、鉄之助君も一つどうぞ。その為にこんなに買ってきたんでしょう」

「あははっ、お見通しですね沖田先生!ばれちゃいました」

「フン、さすがは土方さんのお気に入りだな」

沖田に気さくに返事をする鉄之助だが、斎藤にニヤリと睨まれ、さすがの鉄之助も気まずそうに会釈した。

「まぁ構わんさ。伊東さんに礼を伝えておいてくれ。夢主と沖田君からとな」

俺は関係ないと押し付けるように言い捨てた。
伊東と関わりたくない沖田は渋い顔をした。

「えーーっ、斎藤さんは、貴方も頂くのでしょう」

「団子といえばお前らだろう、俺はこの件に関わらせるな」

「ちぇーっ、仕方がないなぁ・・・すみませんが鉄之助君、そういうことで」

「はい、分かりました先生。では私も遠慮なく」

「ふふっ、私も・・・頂きます」

四人で団子を手に、なんとも不思議で奇妙な楽しい時間が過ぎていった。
 
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