斎藤一京都夢物語 妾奉公

□76.露見
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山南の葬儀の最中、土方は普段と変わらぬ様子で参列している沖田を目で追っていた。

・・・もし、総司が今なにかを申し出てきて、俺は開放してやれるだろうか・・・山南さんの言っていたように、自由に・・・

沖田から目を逸らすと地面に目を落とし、何度か小さく首を振った。
足元の地面は朝露のせいか、いつもより湿って見える。

沖田総司は紛れもなく新選組の主力中の主力、外せない戦力だ。

・・・少なくとも今すぐってのは俺には許可できねぇ・・・すまねぇ、山南さん。もう少し時間をくれ・・・

山南と交わした約束について思い耽る間にも葬儀は進んだ。

やがて式が落ち着くと、沖田が真っ直ぐ土方に向かってきた。
背筋を伸ばし颯爽と目を逸らさず近付いてくる。

「おぉ総司・・・大丈夫か」

毅然とした態度で参列していた沖田、土方から言葉を掛けられるといつもの調子でにこりと微笑んだ。

「大丈夫って、何がですか」

「何がって、お前・・・」

この日、土方は沖田を筆頭に必ず皆からの責めがあるとの腹構えでいた。
所が誰も何も不満や文句を口にせず、ただ土方に頭を下げて大人しく列席していた。

土方は笑顔で話しかけてきた沖田が不思議でならなかった。
昨日は微塵も笑顔を見せなかった沖田が、たった一日でいつもの笑顔に戻っている。
式の最中は笑顔を控えていたものの、穏やかな顔で澄ましていた。

「ははっ、僕はいつもこんなですよ、土方さん。所で、この後は自由にしてもいいですよね、まさか巡察に行けとか言いませんよね」

「あっ、あぁ・・・好きにして構わねぇさ」

「ふふっ、ありがとうございます」

笑って返事をすると沖田は嬉しそうに去っていった。

「総司の奴どうした、やけに明るく振舞ってやがるな。わざとなのか・・・」

沖田の姿を追うと、斎藤を見つけにこやかに声を掛けている。

「斎藤さん、この後一緒に行きましょうよ」

沖田がくいくいっと猪口を口に運ぶ仕草を見せた。
珍しい誘いに驚いたが、夢主も一日部屋に籠もっているので丁度良い。斎藤は快諾した。

「あぁ、いいぞ」

「やったぁ。今日は二人で呑みましょう」

「ほぉ、構わんが」

「じゃぁ早速行きましょう、この後はもう面倒なことしか残っていませんから」

「面倒っておい、いいのか」

葬式は一通り終わったが山南のそばにいてやらなくて良いのか。
斎藤なりに気遣うが、沖田は清々しいまでの笑顔で頷いた。

「構いません、もう僕は別れは済ませました」

「そうか」

やけにあっけらかんとした笑顔に違和感があるが、斎藤は歩き出した沖田に続き、休息所を目指した。
 
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