斎藤一京都夢物語 妾奉公

□79.剣戟、そして江戸へ
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夜の巡察、新選組の幹部達は抜刀斎との遭遇を楽しみに暗闇の京の町を歩く。
一方で平隊士達は隊務に身命を賭しながらも、心のどこかで抜刀斎に出くわさないよう祈りながら組長の後に続いていた。
この夜の一番隊と三番隊の巡察もその例外では無く、斎藤と沖田はどこか楽しげに暗闇を探索していた。

「今夜は僕、緋村さんに会えそうな気がします」

「そうか、それは偶然だな。俺もそんな気がするぜ」

「ふふっ、今宵は譲りませんよ」

「早い者勝ちだな」

真っ先に抜刀斎を見つけて立ち向かおうと、二人とも隊列の最前を歩いている。

「下手をすれば同士討ちになりかねない。ここは一つ、別々に探索するというのはどうだ」

斎藤にとって、どれだけ接近していようが敵と味方を見分けて刀を振るうことは容易だ。味方の刃を受けて恨むつもりもない。
だが楽しい一時を独り占め出来ればこの上ない喜び。
提案された沖田も意を酌んでニヤリと頷いた。

「いいですね、賛成です。その代わり緋村さんと出会ったらちゃんと呼子を吹いてくださいよ」

「あぁ、俺は真っ先に飛び込むがな。おい、お前ら頼んだぞ」

斎藤は伍長と隊士達を振り返った。

「はい、お任せ下さい」

首から下げた呼子を確かめる部下たちに納得し、斎藤と沖田は道の先を見据え直した。
格子状に整えられた京の道が続く。どの道に今宵の幸運が落ちているだろうか。

「では、僕達一番隊は向こうの通りに向かいましょうかね。斎藤さん、くれぐれも殺られちゃわないでくださいよ、あははっ」

「フン、抜刀斎が現れるのは俺の前だ。君が来る前に仕留めてやるさ」

「頼もしいですね」

沖田は負けませんよ、と強い眼差しで言い、踵を返して歩き出した。

男達の行く先は、どの道も暗闇に包まれている。
斎藤は己の隊が進むべき道を決めなければならない。

「まずは浪士だ、不逞浪士を追い込めば奴が現れる」

独り言ちながら、斎藤は無意識に刀の鞘に触れていた。
一番隊が去った後、三番隊の男達は違う方角に幾つかの気配を感じ取った。

「先生っ」

「あぁ」

すぐ後ろを歩く隊士が耳打ちすると、斎藤は愉しそうに顔を歪めた。
奥の路地を走る複数の足音が聞こえる。微かだが遠ざかっていく様子が伝わってくる。
新選組から逃げ出したと確信し、斎藤は気を引き締めて叫んだ。

「逃がすな、挟み込め!!」

身振りで隊を二つに分け、それぞれに進むべき道を示す。
浪士等の後ろを追う隊士達が先行し、斎藤自らは足の速い隊士数人を連れて一本隣の道から足音を追った。

時折現れる隣の道とを繋ぐ細い空間に目をやり、同じ方向に走る浪士達を確認しながら追いかけ、やがて追い越した。
さほど広くない道。
その道を走ってくる狼狽した気配を確実に察し、新選組の隊士達はその前方に姿を現した。

「ちぃっ、挟み撃ちかよ汚ねぇっ!!」

浅葱色の羽織の並びに行く手を阻まれ立ち止まった浪士達。退路も塞がれている。
一人が刀を抜きながら囲まれた事態に怨み言を吐いた。
つられるように残りの浪士達も、新選組の隊士達も、次々と抜刀していった。

「汚い、か。構わんさ、不貞な輩を斬殺、いや捕縛するのが俺達の仕事だ。手段は選ばん」

小者しかいないと見抜き後方で見ていた斎藤が、隊士達の間をかき分けて歩み出てきた。

「やれやれ、五人か。少しでも抵抗するなら斬り捨てるが、抜刀したということはそう捉えて構わんな」

冷たく言い捨てて刀を握ると左肘をすっと引き、腰を落として切っ先を浪士に向ける。
右腕は指先が刃先に触れそうなほど真っ直ぐ伸ばし、敵を視線の先に捉えた。
 
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