斎藤一京都夢物語 妾奉公

□83.背中越し
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夢主の体よりずっと大きな斎藤の体。
懸命に両手を伸ばして帯を回すが、どれだけ腕を伸ばしても、体が触れなければ帯は届かない。
体を寄せると斎藤の背に夢主の頬が触れる。
まるで後から抱きつくような形で、夢主は斎藤の帯を回した。

ぴたりと体同士が触れている恥ずかしさを抑え、腰にもあるという傷に響かないよう、ゆっくりと手を動かした。
一巻き二巻きと帯を回し、夢主は少し離れて後ろに結び目を作った。

「緩く・・・ありませんか」

あまりきつくしては痛みを生むのでは。
遠慮がちに巻いた夢主は、寝やすいように結び目を前に回しながら斎藤に確認した。

「あぁ、今はこれくらいでいいだろう。手間をかけさせたな」

そう応えて斎藤が向き直ると、夢主は困った顔で真っ直ぐ斎藤を見つめていた。
何を困惑している、体が触れたぐらいでそこまで恥らっているのか。斎藤も見つめ返した。夢主のその下がった眉尻はどんな想いから来ているのか、感情に触れようと見つめた。

「どうした、俺に帯を巻くのは大変だったか、確かに体躯の差はでかいが・・・それとも嫌だったか」

無理強いになってしまったかと気遣うと、夢主は小さく首を振った。

「斎藤さん、無理してるのがわかります・・・どうしてもっと素直に手を借りないんですか、こんな時くらい・・・」

「フッ・・・」

泣き出しそうな顔で話す夢主を、斎藤は笑っていた。

「すまんな、お前が余りに真剣だからつい。正直、小姓を呼んで下帯から全て任せようかと思ったが、お前に任せると決めたからにはそれはお前を傷付けるかもしれんと思ってな。お前に下帯はさせられまい・・・フッ」

斎藤の気遣いと冗談に夢主は赤くなり、肩を縮めて恨めしそうに上目遣いを見せた。

「だからって無理はしないでください、傷が・・・体が一番です。下帯は・・・無理ですけど」

褌を濁して使った下帯という言葉で夢主は斎藤のあられもない姿を想像してしまい、一人勝手に更に顔を紅潮させた。

「そうだな、それが一番辛かったんだがな」

「っう、こ、小姓さん呼んで構いませんから!・・・無理はしないでくださいね、下帯以外なら着替えも手伝いますから」

「そうか」

「で、でも、色々見えないようにしてくださいよっ!色々・・・手伝いますから」

「ククッ、前はよく着替えを覗いていたくせによく言うな」

「えっ、私そんなことしていませんっ」

指摘されはっきりと否定するが、斎藤の着替えの最中に綺麗な背中を何度か眺めたのは事実だ。

「あぁぁっ・・・あれは、」

「思い出したか」

「だってあれは、体中傷があるのに背中だけとっても綺麗だったからつぃ・・・」

守るべきものを置く背中に傷は負っていられない・・・
斎藤の言葉を思い出し、自分を揶揄う顔を見上げた。

「今は見えなくなって残念だな、まぁ見たければそっと覗くことだ」

「やっ、そんな事しませんからっ!」

叫ぶが、肌が見えるまで着物を下ろした斎藤の後姿を思い出し、整った筋肉が美しい、白い背を少し恋しく思った自分を責めた。
 
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