斎藤一京都夢物語 妾奉公

□86.見上げる背
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屯所に戻ると夢主は一休みするよう促され、大人しく布団に横たわった。
斎藤と沖田は報告の為、土方の部屋に向かう。
先刻、一旦戻った沖田の報告で既に眉間に皺を寄せている土方が二人を出迎えた。

「早速だが斎藤、全部話せ」

苛ついて言い捨てた土方に斎藤は小さく頷き、夢主から聞いた話を言葉を変えながら二人に伝えた。
頼まれた通り、志々雄の件だけはその存在を曖昧にした。

土方と沖田は怒りを抑えて静かに話を聞いた。
沖田は自らに付きまとっていた女が原因と知り青ざめている。

「沖田君、君が悪いわけではない。だが、もう少し毅然と断るべきだったな」

容赦ない斎藤の言葉に、沖田は頭を垂れて愕然とした。

「僕の・・・」

「お前のせいじゃない、総司。お前は運がいいな」

「えっ」

この不運をして何故運が良いなどと言えるのか、沖田は顔をしかめて土方を見上げた。

「ちょうど大坂での仕事があるんだが・・・お前、行ってくるか」

「大坂・・・はい、行かせてください!けじめを・・・つけてきます」

「殺すなよ」

「分かっています・・・」

落ち着いた声で応えた沖田は、膝の上で拳を握った。

「これを持って行け」

「これは・・・」

土方は沖田に土汚れた頭巾を渡した。

「隊士が拾ってきたんだ。現場に落ちていた。頭巾を被った女が夢主を連れ出したと門番が話していた。恐らく・・・」

「分かりました」

沖田は頭巾を力強く握った。

「土方さん、夢主の様子を見ますか」

夢主を気に掛ける土方、姿を確認したいだろうと訊ねるが、土方は首を横に振った。

「俺がどたばたと動いては、返って回りも気にするだろう。あいつのことは・・・任せたぞ」

斎藤と沖田は強く頷くと腰を上げた。
外に出ると空が赤く染まり、日が沈みかけている。
空の色など興味がない沖田だが、ふと見上げたその儚い一瞬の色合いに心を奪われた。

「切ない色ですね・・・」

「大丈夫か沖田君」

声を掛けても沖田は夕焼け色に染まった顔で空を見上げている。

「えぇ・・・申し訳ない気持ちで一杯ですが・・・僕が気にしていては夢主ちゃんがもっと気にしてしまう。・・・あぁ、どうして女の人ってこうも怖いことばかりするんでしょう!」

「フッ、君はどうも深く傾倒されやすい男のようだな」

「そんな、僕はいいのに・・・土方さんみたいに女の方をあしらうのが上手い人の所に行けばいいんだ。いくらだって相手してもらえるのに」

「ハハッ、土方さんだってそういう手合いは面倒くさがって相手にせんだろう。お前が土方さんに女の扱いを習えばいい」

「そんな手習いごめんですよ!全く」

深く溜息を吐くと口を閉じて廊下を行った。
斎藤と沖田の部屋は入り口は別だ。間に夢主の居場所があり、二人の部屋は分かれている。
沖田の部屋を行き過ぎようとした斎藤、自室の障子を先に開けた沖田が口を開いた。

「斎藤さん、夢主ちゃんは大丈夫でしょうか・・・」

「・・・あぁ」

「そっか」

にこりとして沖田は部屋の中へ消えた。
 
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