斎藤一京都夢物語 妾奉公

□88.いつかの望み
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すっかり日が昇りきった午後。
うだるような暑さの中、夢主は洗い物を抱えて井戸に向かい、久しぶりの人物に出会った。

「原田さん!」

「よぉ、夢主。俺があまりいねぇからか、なんだか久しぶりだな」

「はい・・・お久しぶりです、本当にっ」

原田が頭から水をかぶり、暑さを吹き飛ばしていた。
暫くぶりの温かい笑顔に夢主の胸は詰まり、声が震えそうになる。

「大変な目にあっちまったんだってな・・・辛かったな。もう落ち着いたか・・・気になって顔を見に来たんだぜ、ちょっと待てよ・・・」

「ぁあぁっ、はいっ」

我に返ると目の前には行水の為、下帯一枚の姿。
原田は着物と共に置いていた手拭いを手に取り、荒っぽく体を拭いて着物を羽織った。

「その辺に座ろうぜ」

誘われて縁側に腰を下ろすと、髪をかき上げた原田の雫が夢主の顔に飛んだ。

「わっ・・・」

「ははっ、すまねぇな」

原田の太い指が夢主の目の下についた雫を拭い去り、そのまま大きな手は夢主の頭に置かれた。
頭を撫でるように触れながら、原田は夢主の顔色を確かめた。

「ここんとこずっと、おまさとの家に帰ってるからよ、お前にも会ってなかったな」

「はぃ・・・」

大きく温かい手を頭に添えられて、夢主は親に頭を撫でられている子のように大人しく座っている。

「少し、おまささんが羨ましいです」

「そうか、俺としては嬉しい言葉だがな。お前らも・・・くっついちまうわけには、いかねぇんだってな。前に総司が言ってたぜ、お前と斎藤がくっつかねぇのを周りがやんやと騒いだ時にな。お前の苦しみも知らないでっ・・・てよ。凄げぇ怒ってたな、あいつにしては珍しい」

「沖田さんが・・・」

「何か理由があるんだな。総司も知ってる理由が・・・俺にも貸せる力があるなら・・・いくらでも頼ってくれよ」

「原田さん・・・ありがとうございます」

ごしごしと目を擦って溜まった涙を誤魔化すと、何事も無かったように微笑んだ。

「原田さんと・・・おまささんのことが知りたいです」

「俺かっ?!俺達はそりゃぁ、なぁ」

自分達の関係を話すのは照れくさいと、珍しく赤らんだ顔をしている。

「まぁよ・・・惚れ合ってるわけだし、一緒に住み始めたからな、それなりに・・・夜はよ」

「あっ、そ、そういうお話ではなくてですねっ」

何を話そうとしているのか気付いた夢主は、顔を赤くして慌てて話を止めた。

「そうではなくて・・・おまささんは原田さんのお仕事を・・・どれくらいご存知で、どう思ってるのかなぁって・・・」

「仕事」

原田は不思議そうに首を傾げた。
 
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