斎藤一京都夢物語 妾奉公
□88.いつかの望み
1ページ/6ページ
すっかり日が昇りきった午後。
うだるような暑さの中、夢主は洗い物を抱えて井戸に向かい、久しぶりの人物に出会った。
「原田さん!」
「よぉ、夢主。俺があまりいねぇからか、なんだか久しぶりだな」
「はい・・・お久しぶりです、本当にっ」
原田が頭から水をかぶり、暑さを吹き飛ばしていた。
暫くぶりの温かい笑顔に夢主の胸は詰まり、声が震えそうになる。
「大変な目にあっちまったんだってな・・・辛かったな。もう落ち着いたか・・・気になって顔を見に来たんだぜ、ちょっと待てよ・・・」
「ぁあぁっ、はいっ」
我に返ると目の前には行水の為、下帯一枚の姿。
原田は着物と共に置いていた手拭いを手に取り、荒っぽく体を拭いて着物を羽織った。
「その辺に座ろうぜ」
誘われて縁側に腰を下ろすと、髪をかき上げた原田の雫が夢主の顔に飛んだ。
「わっ・・・」
「ははっ、すまねぇな」
原田の太い指が夢主の目の下についた雫を拭い去り、そのまま大きな手は夢主の頭に置かれた。
頭を撫でるように触れながら、原田は夢主の顔色を確かめた。
「ここんとこずっと、おまさとの家に帰ってるからよ、お前にも会ってなかったな」
「はぃ・・・」
大きく温かい手を頭に添えられて、夢主は親に頭を撫でられている子のように大人しく座っている。
「少し、おまささんが羨ましいです」
「そうか、俺としては嬉しい言葉だがな。お前らも・・・くっついちまうわけには、いかねぇんだってな。前に総司が言ってたぜ、お前と斎藤がくっつかねぇのを周りがやんやと騒いだ時にな。お前の苦しみも知らないでっ・・・てよ。凄げぇ怒ってたな、あいつにしては珍しい」
「沖田さんが・・・」
「何か理由があるんだな。総司も知ってる理由が・・・俺にも貸せる力があるなら・・・いくらでも頼ってくれよ」
「原田さん・・・ありがとうございます」
ごしごしと目を擦って溜まった涙を誤魔化すと、何事も無かったように微笑んだ。
「原田さんと・・・おまささんのことが知りたいです」
「俺かっ?!俺達はそりゃぁ、なぁ」
自分達の関係を話すのは照れくさいと、珍しく赤らんだ顔をしている。
「まぁよ・・・惚れ合ってるわけだし、一緒に住み始めたからな、それなりに・・・夜はよ」
「あっ、そ、そういうお話ではなくてですねっ」
何を話そうとしているのか気付いた夢主は、顔を赤くして慌てて話を止めた。
「そうではなくて・・・おまささんは原田さんのお仕事を・・・どれくらいご存知で、どう思ってるのかなぁって・・・」
「仕事」
原田は不思議そうに首を傾げた。