斎藤一京都夢物語 妾奉公

□90.密偵、酒宴
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蒼紫が去った後、再び眠気に誘われて布団に身を倒した夢主は、翌朝目覚めて手の中に花を見つけた。
残された花を大事に握って眠っていたのだ。

明るくなった部屋の中、斎藤から借りている本の下に置かれた一枚の紙を取り出した。半分に折られた紙をそっと開き、中を覗いた。
中には小さな花が沢山並んでいる。夢主が並べたその花は水分を失い色も褪せているが、愛らしい姿はそのまま残されていた。
それは全て蒼紫が置いていった花だ。
渡された花が全て揃っているわけではないが、その殆どが綺麗に並べられていた。

夢主は蒼紫が残した最後の藤の花を、狭くなった隙間に乗せて紙を閉じた。

「開けるぞ」

「はい」

「来たんだな」

「斎藤さん・・・おはようございます」

襖の向こうに返事をすると寝巻のままの斎藤が顔を覗かせた。来ていたのかと訊ねられ、夢主は目が合うとすぐに頷いた。

「最後のお花を頂きました。もう来ないと・・・江戸に行くと言ってました」

「そうか」

「江戸城御庭番衆・・・あの人の本当のお仕事に就くんですね」

「本来の仕事、か」

自室に体を戻そうとする斎藤がふと止まった。
御庭番衆の本来の仕事、江戸城を守る役目。

「こそこそと覗きに来るのが仕事でなくて良かったな」

「斎藤さん!」

「冗談だよ、確かにあいつは役に立ってくれていたようだからな。江戸城でしっかり役目を果たすだろうさ」

「そうです・・・きっといつか、また会えます」

「会いたいのか」

「そういう訳ではなくてですね」

「分かってる、冗談だと言っているだろう。戦いに身を置いていれば何れ出会うことになる。戦いのそばに身を置くお前も、同じことだ」

斎藤は襖に掛けた手を最後まで残し、自室に身を隠した。

その斎藤も新しい戦いに身を置くことになる。
土方に呼び出され、以前から見張るよう言われていた伊東と更に深く行動を共にしろと言い付かった。
報告も随時ではなく、伊東に訝しまれないよう、時機は任された。

必要と判断すれば例え隊や土方の指示に背いても構わない、ただ伊東の手から新選組を守る為に動けと指示を受けた。
三年の間探りを入れ続け、ようやく何らかの確信を得た土方は斎藤にここ一番の仕事を託したのだ。

「沖田君には」

「総司にも言わねぇ。さすがに薄々と勘付くかもしれねぇが、それはそれだ。しっかりと伊東の懐に潜り込め。夢主はきっと分かっているだろう、割り切って望めよ」

「もちろん」

静かな会話で斎藤に大きな任務が言い渡された。
 
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