斎藤一京都夢物語 妾奉公

□92.名残惜しい人
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何も知らない者達にとっては突然の出来事だった。

「三木三郎、篠原泰之進、服部武雄、毛内有之助、富山弥兵衛、阿部十郎、内海次郎、加納鷲雄、中西昇、橋本皆助、清原清、新井忠雄、藤堂平助、斎藤一、以上は伊東参謀と共に分隊し、御陵衛士として活動する。屯所も別になるから各自心得ておけ」

簡潔に伝えられた新選組の変動を聞かされ、集められた幹部達は口をぽかんと開き、驚きを露にした。
皆、土方を見つめ、反論する言葉も出てこない。
名前を挙げられた者達以外では、沖田がただ一人、平静な面持ちで話を聞いていた。それでもいつもの笑顔は影を潜めている。

「以上だ、散会」

土方の声を合図に、名を呼ばれた者達は腰を上げ、次々に部屋を後にする。
事情を知らず名前も呼ばれなかった者達は、ごそごそ動き出す伊東派の姿を目にして我に返った。
身内同然に思い、共に過ごしてきた二人を引き留める。

「おい斎藤っ!!平助!!」

「名前を呼ばれなかった者達は残れ、もう少し話がある」

真っ先に立ち上がった原田と永倉を牽制するように土方が睨み付けた。
藤堂はその隙に小さく頭を下げ、立ち去った。申し訳無さそうな背中に、原田達もそれ以上声を掛けられなかった。

「失礼します」

緊張する空気を余所に、斎藤はいつもの調子で藤堂の後に続いてに出て行った。

「おい、土方さん!!どういう事だよ!!何で分隊なんて!!よりによって斎藤と平助まで!!」

「ていのいい脱隊じゃねぇか、伊東の言い出した事なんだろう?!なんで許すんだ!!」

土方は姿勢を崩さず、暫く男達の罵声を黙って身に受けた。
それぞれ思う所があるのは当然だ。この一件に関しては無理に黙らせるより、言いたいことは全て吐き出させたほうが良い。
やがて思いを全て土方にぶつけた男達は、諦めたように胡坐を掻いて座り込んだ。

「何でだよ・・・ずっと一緒にやってきたのに・・・斎藤も・・・平助も・・・」

「夢主は・・・知ってるんですか、どうするんですかあいつを」

・・・来たか・・・

一番厄介な質問を受けた土方は、気付かれぬよう唾を飲み込んでから口を開いた。

「本人に任せるさ。ついて行きたいなら行かせるし、残りたいならそれで構わない」

「斎藤を追いかけて・・・向こうで夢主が無事に過ごせるとは思えねぇぜ、無責任じゃねぇか!」

「そうだ!伊東のそばに置いてよ、更に伊東の周りには怪しい奴らが動いてるって言うじゃねぇか、そんな所に!」

「ほぅ・・・ならお前達が個人的に面倒を見てやれば良いだろう」

既に大切にしている者が、守るべき家族がいる原田と永倉は言葉に詰まり、眉を寄せて土方を睨み返した。

「夢主に余計なことは言うなよ、斎藤から話すだろう。それに出て行く奴らを引きとめようと下手な事はするな。新選組と御陵衛士、隊士の行き来を禁ずる。即ち、出て行くと決まった者はもうここには戻れねぇんだよ」

「何っ・・・」

「嘘だろう・・・」

「分かったら、お前らは自分達のすべきことを為すんだな」

少なからず伊東を慕っていた永倉は衝撃を受けていた。
自分に何の相談も無く出て行くとは、自分に声も掛けないとは。あれだけ心を開いて呑み明かした夜はなんだったのか。
呆然と、虚無感と共に怒りに襲われていた。

「俺は・・・認めねぇ」

そう呟くとゆっくり立ち上がった。

「おい新八・・・」

友としてお前を心配している・・・土方が懐かしい名で呼び気持ちを示すと、永倉は応えるように大きく頷いた。

「大丈夫ですよ・・・俺は馬鹿じゃねぇ」

一言残してその場を去った。
そのままどこかへ遠ざかってしまいそうな虚しさ漂う背中。
永倉を見送った残された者達にも、重たい空気が流れた。
 
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